アスレティックトレーナーのワークライフバランスを考える②組織の設計

アスレティックトレーナーのワークライフバランスを考える スポーツ現場
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「個人の工夫」より「現場の仕組み」

第1回で触れた通り、ATのWLBが崩れやすい理由は「長時間・不規則」「即レス文化」「役割の増殖」「代替が効かない」といった構造にある、と解説しました。

NATAのポジションステートメントが強調するのは、WLBの実現には個人のセルフマネジメントだけでなく、組織側の戦略が不可欠だという点です。

特に、休暇などの“正式ルール(formal policies)”を作るだけでなく、部門と個人レベルで支えられ、さらに職場の空気(organizational climate)として根付く“非公式の運用(informal policies)”が重要だと述べています。

National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Facilitating Work-Life Balance in Athletic Training Practice Settings

今回は、監督・コーチ、チーム運営、トレーナー統括、医療部門管理者など“現場を設計できる側”が、何から手を付けるべきかを整理します。

この記事でわかること
  • 組織が整えるべき3要素(制度・運用・文化)
  • 「連絡即レス」「単独配置」「代替なし」を減らす具体策
  • 現場にそのまま導入できるチェックリスト
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組織が整えるべきは「制度・運用・文化」の3点セット

WLB対策が失敗しやすい理由は、制度だけ整えて終わるからです。

たとえば「休暇は取っていい」と規程があっても、代替がなく、連絡が夜まで続き、休むと罪悪感が出る職場では実質的に機能しません。

NATAの提言は、次の3点をセットで回すことにあります。

  • 制度:ルールを言語化し、揉めどころを減らす
  • 運用:業務量と期待値を見える化し、調整して回す
  • 文化:制度を「使っていい空気」にする
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制度:まず「言語化」する

制度は、誰かの善意に依存して回すのをやめるための“共通言語”です。

特に効果が大きいのは次の3つです。

連絡ルールを明文化する

現場で一番、WLBを侵食するのは「緊急が無限化すること」です。

連絡ルールは、次の3点だけでも文章化すると、夜間連絡とストレスが大きく減ります。

  • 通常連絡の窓口(例:LINEグループ/チームアプリ/メール)
  • 通常連絡の対応時間(例:8:00〜20:00、返信は24時間以内)
  • 緊急の定義(これだけは電話、を決める)

NATAでも、仕事から離れる(ディスエンゲージ)時間を確保できる環境づくりが重要だとされています。

現場で通りやすい言い方のコツ

「休みたいから」ではなく、「緊急時に確実に動けるように“緊急の入口”を整理するため」です。

休暇・代休・遠征帯同のルールを決める

下記は特に揉めやすい点です。

  • 休日出勤の代休付与(いつ、どう取るか)
  • 連戦・遠征後の回復日(翌日は連絡窓口を別担当にする等)
  • 学会・研修参加の扱い(勤務扱い/補助の有無)

制度は「取れること」より「取る運用が決まっていること」が重要です。

不在時の代替カバー(最低限)を決める

単独配置・少人数ほど、制度化しないと休めません。

最低限、次だけでも決めておくと現場が止まりません。

  • 不在時の連絡先(監督・コーチ、代替AT、提携医療機関、チームドクター)
  • “競技続行の安全判断”は現場責任者が行える(医療判断ではなく安全判断)
  • 受診導線(提携先、休日夜間、救急の使い分け)
  • 事後共有の記録テンプレート(何が起きたか、何をしたか)

この「代替の最低限」があるだけで、休暇・研修が現実になります。

運用:業務量と期待値を「見える化」する

制度を作っても崩れるのは、運用で仕事が増えるからです。

運用の要点は「業務量の棚卸し」と「期待値調整」です。

業務量を定期的に棚卸しする

業務量が見えないと、調整も増員提案もできません。

まずは月1回、3つに分けて書き出すのがおすすめです。

  • 現場拘束:練習、試合、遠征、移動
  • 現場外業務:記録、連携、書類、教育、ミーティング
  • 突発対応:夜間連絡、救急対応、追加帯同

NATAは、管理者が“ゲートキーパー”として業務量を点検し、調整する役割を担うと述べています。

ポイント

現場外業務が“無限タスク”になりやすいので、ここを時間として確保しないと、結局夜に食い込みます。

シーズン前に「期待値調整ミーティング」を必ず行う

NATAの提言でも、職場内のコミュニケーションや調整が重要な要素として扱われています。

ミーティングで合意するのは、次の4項目です。

  • 試合帯同の範囲(全試合か、優先順位をつけるか)
  • 連絡ルール(緊急定義、対応時間)
  • 追加業務の依頼ルート(当日増やさない、誰経由か)
  • 復帰判断のプロセス(誰が何を決め、いつ医師に上げるか)

合意形成の狙いは「断る回数を減らす」ことです。

ズレが小さいほど、日々の摩擦が減ります。

メンタリングを「業務の線引き支援」として運用する

メンタリングは精神論ではありません。

新人・若手が詰まりやすいのは「境界線」「優先順位」「交渉」です。

定期面談(短くてOK)で、次の確認を回します。

  • 今週増えた業務は何か(増殖ポイントの特定)
  • 何をやめる/誰に任せるか(委任の設計)
  • 連絡や拘束でしんどいポイントはどこか(境界線の補修)

NATAのポジションステートメントでも、組織と個人の両戦略を組み合わせることが推奨されています。

文化:制度を「使っていい空気」に

最後が一番重要で、一番難しいのが文化です。

ここが弱いと制度が“存在するだけ”になります。

管理者が模範を示す

次の行動は、現場の空気を一気に変えます。

  • 夜間に連絡を送らない(必要なら予約送信)
  • 代休を“実際に”取る
  • 「今日はここで切り上げて大丈夫」を言語化する

文化はスローガンより、日々の行動で作られます。

承認と報酬は「給与」以外も効く

予算が厳しい現場でも、次の点は導入しやすくなります。

  • スケジュールの裁量(当番制、遠征後の回復日)
  • 学習機会の担保(研修参加、勉強時間の確保)
  • 努力の可視化(役割の明確化、評価軸の共有)

「制度としてある」より「使ってよい」が伝わる運用が鍵です。

管理者・運営向けチェックリスト(12項目)

導入の優先順位がわかるように、最短で効く順に並べます。

  • 緊急の定義が文章化されている(緊急=電話)
  • 通常連絡の対応時間と返信目安が決まっている
  • 不在時の一次窓口(監督/コーチ)が決まっている
  • 不在時の受診導線(提携先・休日夜間・救急)が共有されている
  • 休日出勤の代休ルールが「いつ取るか」まで決まっている
  • 遠征・連戦後の回復日(または軽減運用)がある
  • 現場外業務の時間がスケジュールに入っている
  • 追加業務の依頼ルートが決まっている(当日増殖を止める)
  • シーズン前に期待値調整ミーティングを実施している
  • 月1回、業務量の棚卸し(拘束・現場外・突発)をしている
  • メンタリング(定期面談)が運用されている
  • 管理者がWLBの模範行動をしている

チェックが6個未満なら、まず「緊急定義」「連絡時間」「不在時の窓口」の3点だけでも固定してください。

ここが固まると、現場のストレスが一段落します。

まとめ

  • ATのWLB改善は、組織が「制度・運用・文化」をセットで整えるのが前提
  • 最初の一歩は、連絡ルール(緊急の定義)と代替カバー、代休設計の“言語化”
スポーツ現場
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