ゴールは「痛みゼロ」ではなく「再発しないこと」
足関節捻挫は、短期間で競技に戻れるケースがある一方、違和感・不安定感・再受傷を繰り返して慢性化することがあります。
そこで重要なのが、急性期を過ぎた段階からの「機能的リハビリ」と「再発予防」をセットで考えることです。
後編では、競技復帰までの道筋を「評価→介入→判断」でつなげます。
- 機能的リハビリ(外固定+早期荷重+運動)の組み立て方
- ROM(特に背屈)、筋力、関節モビライゼーション、バランス訓練の進め方
- 競技復帰(RTP)を判断するための主観評価と機能テストの使い方
- 再発予防に効かせやすいブレース/テーピング運用と予防プログラム
- 高位足関節捻挫(シンデスモーシス)と慢性足関節不安定性(CAI)の注意点
今回の内容は下記論文を参考にしています。
基本方針は「機能的リハビリ」
足関節捻挫は軽度(グレードⅠ)、中程度(グレードⅡ)、重度(グレードⅢ)に分類されます。
グレードⅠ〜Ⅱの標準は、ギプスで固め続けるよりも、外固定(包帯・テーピング・ブレース等)を使いながら、痛み許容範囲で荷重と運動を進める「機能的リハビリ」です。
グレードⅠ〜Ⅱ
・外固定を併用しつつ、早期から荷重と運動を段階的に増やす
・早期に動かすほうが、日常動作への復帰が早い傾向がある
グレードⅢ
グレードⅢは少なくとも10日間の固定(リジッドスターラップブレース/下腿ギプス)後に運動療法が望ましいとされています。
・短期間の固定が必要と考えられることが多いが、最適な方法・期間は一概に言いにくい
・短期固定後に機能的リハビリへ移行する流れが現実的
・症状遷延例では専門的評価(画像・不安定性評価)を検討
運動療法の「柱」は5本
機能的リハビリを「何を入れるか」で具体化すると、次の5本が柱になります。
①可動域(ROM)回復:背屈制限を軽視しない
捻挫後は足関節背屈(つま先を上げる動き)が落ちやすく、歩行や切り返し、ジャンプ着地に影響します。
- 痛みが許す範囲で早期からROM運動(背屈・底屈・内反・外反)
- 背屈が戻りにくい場合は、後述の関節モビライゼーションも選択肢
②筋力と筋活動:腓骨筋だけでなく全体の強化
外反筋(腓骨筋群)の筋力低下や筋活動低下はよく話題になりますが、実際は内反筋、底屈筋、背屈筋まで含めて総合的に落ちることがあります。
- 4方向の抵抗運動(背屈・底屈・内反・外反)を基礎に
- 痛みが落ち着けば、閉鎖性運動連鎖(スクワット、カーフレイズ、ランジなど)も段階的に
- 痛み・腫れ・フォームを指標に負荷を調整する
③関節モビライゼーション:背屈が詰まるときの一手
捻挫後は距骨の後方滑りが制限され、背屈が出にくくなることがあります。
背屈制限がボトルネックの選手では検討価値があります。
- 背屈の左右差が残る、しゃがみ込みで踵が浮く、着地が硬い等があれば評価
- 運動(背屈練習)とセットで背屈可動域「定着」を狙う
④センサリモータ(バランス/神経筋)訓練:再発予防の主役
再発を減らす介入として、バランス・神経筋トレーニングは中心的です。
- レベル1:片脚立位(安定床)30〜60秒×複数セット
- レベル2:不安定床で片脚立位
- レベル3:上肢課題(ボールパス、キャッチ)や外乱(軽い押し)を追加
- レベル4:ジャンプ着地+静止、切り返し前の停止制御
- 短時間でも継続できる設計にする
- 競技特性に合わせて、着地・切り返し要素を早めに統合する
⑤スポーツ動作への再統合:走る前に“止まれる”を作る
痛みが減って走れそうでも、再発は「止まる」「切り返す」「着地する」で起きやすいため、十分な訓練が必要です。
- 直線ジョグ→加速減速→方向転換→ジャンプ着地→競技固有動作の順
- 翌日の腫れ増悪や痛みが残るなら一段階戻す
RTP(競技復帰)は「主観×客観×競技動作」で決める
復帰判断は、関節可動域や筋力だけでは足りません。
数値化できる指標を組み合わせると、早すぎる復帰を防ぎやすくなります。
主観(自己評価尺度)を入れる理由
自己評価尺度(例:FAAM、FADI、LEFSなど)は、本人が感じる“できる/怖い”を拾えます。
痛みが軽くても不安定感が強い選手は、復帰後にパフォーマンス低下や再発につながりやすいので、主観評価は軽視しないのがポイントです。
客観(機能テスト)の使い方
- 片脚バランス(開眼・閉眼)
- SEBT系(片脚立位で多方向にリーチする動作課題)
- 片脚カーフレイズ(テンポ一定で回数評価)
- ホップ系(距離、時間、エラー):片脚ホップ、クロスオーバーホップ、シャトル等
目安として「健側の80%以上」を一つの基準にする考え方がありますが、単独で決めず、次も合わせて見ます。
- 痛みがほぼない
- 運動後に腫れが悪化しない
- 背屈ROMが左右で大きく崩れていない
- 切り返し、着地、接触後の反応が崩れない
- 本人が「怖さ」なく競技動作を完遂できる
テーピングと装具:既往者の再発予防に強い
外固定(テーピング・ブレース)は「初回予防」よりも「再発予防」で効果が出やすい傾向があります。
ブレース(装具)が向きやすい人
・既往がある
・練習量が多い
・チーム全体で再現性を担保したい(巻く技術差を減らせる)
テーピングが向きやすい人
・競技規則や装具の制約がある
・細かな制動方向を調整したい
・コストと人手が確保できる
シューズ(フットウェア)は結論が出にくい
ハイカット/ローカットやクッション特性と捻挫リスクの関係は、競技や条件で結果が割れています。
シューズだけで予防を狙うより、外固定(必要者)+神経筋トレーニングを土台にするのが堅実です。
予防プログラム|何を、どれくらいすべき
複数要素(バランス、ジャンプ着地、筋力、教育など)を組み合わせた介入で、足関節外傷リスクが下がったとする報告があります。
重要なのは、長時間の特別メニューより「短くても継続できる設計」です。
H3:10分で回す再発予防メニュー(例)
- 1分 片脚立位(左右)
- 2分 前後・左右のリーチ(SEBT簡略)
- 2分 不安定床で片脚立位(できればボールキャッチ追加)
- 2分 その場ジャンプ→静止(左右)
- 2分 サイドステップ→停止→切り返し(小さく速く)
- 1分 クールダウン(ふくらはぎ・足部)
ポイント
・既往者は最優先で実施
・週1より、短くても週2〜3以上が現実的
・痛みや腫れが増える場合は難度を下げる
特殊ケース① 高位足関節捻挫(シンデスモーシス)
足関節より上(脛骨と腓骨の間)に圧痛があり、骨折が否定的でも強い機能障害がある場合は高位損傷を疑います。
特徴として「蹴り出しが弱い」「力が入らない」と訴えることがあります。
- 早期の見極めと保護(固定・免荷や制限)が重要
- 外旋や過度な背屈・底屈で症状が悪化しやすいので、リハでは関節保護を優先
- RTPは「走る・切る・蹴る」を跛行なく実施できるかが核心
- 明らかな離開が疑われる場合は医療機関で評価し、必要に応じて固定(手術を含む)を検討
特殊ケース② 慢性足関節不安定性(CAI)
CAIは、繰り返す捻挫や「giving way(ガクッと抜ける感じ)」、痛み、筋力低下、機能障害が残る状態です。
機械的要因(靭帯のゆるみ等)と機能的要因(神経筋制御・姿勢制御の低下等)が絡みます。
CAIの介入は「欠けている要素を埋める」
- 背屈ROMの不足があれば改善(必要に応じてモビライゼーション)
- 筋力は足関節だけでなく、股関節外転・伸展も含めて底上げ
- バランス+ホップ+閉鎖性運動連鎖の統合トレーニングを継続
- それでも不安定感が強い、再発を繰り返す場合は医療連携を検討
まとめ:後編の実践ポイント
- 足関節捻挫の本番は亜急性期以降。機能的リハビリを軸に組み立てる
- 運動療法は「ROM、筋力、モビライゼーション、バランス、競技動作統合」の5本で考えると抜けが減る
- RTPは主観(自己評価)と客観(機能テスト)と競技動作で総合判断する
- 再発予防は、既往者ほど「ブレース/テーピング+バランストレーニング」が効きやすい設計
- 高位足関節捻挫とCAIは別枠で考え、早期に見極めて方針を切り替える




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