はじめに
近年、スポーツパフォーマンスの向上と回復促進を目的とした新たな手法として、フォトバイオモジュレーション療法(PBMT)が注目を集めています。
特に、高強度の運動を行うアスリートにとって、PBMTは有望な介入手段とされています。
本記事では、PBMTの概要と、最新の研究が示すハイレベルのラグビー選手における効果について解説します。
フォトバイオモジュレーション療法(PBMT)とは
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PBMTは、低出力のレーザーやLED光を組織に照射し、細胞レベルでの生物学的プロセスを調節する非熱的療法です。
具体的には、ミトコンドリアのシトクロムcオキシダーゼに作用し、酸素消費量やATP(アデノシン三リン酸)生成を増加させることで、細胞のエネルギー代謝を促進します。
これにより、筋肉のパフォーマンス向上や回復促進、炎症の軽減などの効果が期待されています。
最新研究が示すPBMTの効果
2016年に発表された研究では、PBMTが高レベルのラグビー選手のパフォーマンスと回復に及ぼす影響が検証されました。
この研究は、無作為化クロスオーバー二重盲検プラセボ対照試験として実施され、以下のような結果が報告されています。
スプリントパフォーマンスの向上
PBMTを運動前に適用した結果、選手の平均スプリントタイムが有意に短縮されました(p ≤ 0.05)。
これは、PBMTが筋肉のエネルギー代謝を促進し、瞬発的な運動能力を高める可能性を示唆しています。
疲労指数の改善
同研究では、PBMT適用後の疲労指数も有意に改善されました(p ≤ 0.05)。
これにより、選手は高強度の運動を持続的に行う能力が向上し、パフォーマンスの安定性が増すと考えられます。
血中乳酸レベルの低下
運動後の血中乳酸レベルの上昇は、筋肉の疲労や回復遅延の指標とされています。
PBMTを適用した選手では、血中乳酸レベルの上昇率が有意に低下しました(p ≤ 0.05)。
これにより、筋肉の疲労感が軽減され、回復が促進される可能性があります。
主観的疲労感の軽減
選手自身が感じる疲労感も、PBMT適用後に有意に軽減されました(p ≤ 0.05)。
主観的な疲労感の低下は、心理的なパフォーマンス向上にも寄与するため、総合的な競技力の向上が期待できます。
PBMTの実践的な応用方法
適用部位と手順
PBMTの適用は、主に下肢の特定の部位に対して行われます。
具体的には、各下肢の17箇所(大腿四頭筋9箇所、ハムストリングス6箇所、下腿三頭筋2箇所)に対して、特定の波長と出力を持つレーザーやLEDを用いて照射します。
この手順により、筋肉全体に均一な効果をもたらすことが可能です。
適切な照射量とタイミング
効果的なPBMTの適用には、適切なエネルギー量とタイミングが重要です。
前述の研究では、各照射ポイントに対して30ジュールのエネルギーを運動前に照射することで、パフォーマンス向上と回復促進の効果が得られました。
したがって、運動の約20分前にPBMTを適用することが推奨されます。
PBMT導入時の注意点
PBMTを導入する際には、以下の点に注意が必要です。
機器の選択と医療専門家の指導
使用する機器の波長や出力が効果に影響を与えるため、信頼性の高い機器を選択することが重要です。
また、適切な適用手順や照射量を確保するため、専門家の指導の下で導入を進めることが推奨されます。
なお、この論文では使用した機器について以下の記載があります。
12個のダイオード(905nmのレーザーダイオード4個、875nmの発光ダイオード[LED]4個、640nmのLED4個、1部位あたり30J、Multi Radiance Medical社製)を備えたクラスターを用いて、各下肢17部位にフォトバイオモジュレーション療法照射を行った。
個別対応
選手の状態やニーズに応じて、照射部位やエネルギー量を調整することが効果的です。
まとめ
フォトバイオモジュレーション療法(PBMT)は、高レベルのラグビー選手において、スプリントパフォーマンスの向上や疲労回復の促進など、多岐にわたる効果を示しています。
適切な手順と条件でPBMTを導入することで、競技パフォーマンスの最適化と迅速な回復が期待できます。
今後、PBMTはスポーツ現場における有望な介入手段として、さらなる注目を集めることでしょう。
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