はじめに
選手主体の学びを引き出す「プレーヤーズセンタード」では、コーチが一方的に教えるのではなく、選手が自分で決定し、自らの経験から学べる環境を整えることが重要です。
日本スポーツ協会(JSPO)では、その実現のために「指示(Tell)」「提案(Sell)」「質問(Ask)」「委譲(Delegate)」という4つのアプローチを提示しています。
これらを適切に組み合わせることで、選手は主体性を持ちながら、より深い学びと成長を得ることができます。
※本記事は日本スポーツ協会(JSPO)が提唱するコーチングアプローチの趣旨をもとに、独自に編集・構成しています。
指示(Tell)

コーチが意図を明確に示し、選手にその行動を求める方法です。短時間で状況を変えたいときや、迷いを断ち切って動かしたい場面で効果を発揮します。
たとえば「腰を低くして構えて」や「次のパスはワンタッチで出そう」といった具体的な指示を与えます。
ポイント
- 指示は悪いものではなく、状況によっては最も効果的な手段となる
- 声のトーンや表情、タイミングによって印象が大きく変わる
- ただし「指示しかできない」状態は避ける
特徴
- 即座に実行してほしい行動を短く明確に示す
- 初心者や緊急時、戦術変更時などで有効
活用例
- フォーム修正:「腰をもっと低く構えて」
- 戦術指示:「次は右サイドから攻めよう」
- 即時行動:「シュート後は必ずリバウンドに飛び込む」
提案(Sell)

選手に選択肢を提示し、自らやってみようと思わせるアプローチです。指示よりも選手の意思が尊重されるため、納得感や意欲が高まりやすくなります。
「この動きに変えると守備が安定するかもしれない」「この攻め方を試してみよう」など、選手が納得して取り組めるように提案します。
ポイント
- 経験や知識が少ない選手には特に有効
- 複数の選択肢を提示して、選ばせる形も効果的
- 提案内容はどれを選んでも問題ないものを用意する
特徴
- 根拠を添えて提案することで選手のモチベーションを引き出す
- 選手が選択肢の中から行動を選べる
活用例
- 攻撃の選択:「AのパターンとBのパターン、どちらを試す?」
- 守備の改善:「この位置から入ると守りやすくなるかも」
- 技術向上:「この呼吸法を試すと持久力が上がる可能性があるよ」
質問(Ask)

選手が自分で気づきを得られるよう促すアプローチです。選手の考えや感覚を理解するためにも有効です。
「今のプレーでうまくいった部分は?」「別の選択肢はあったかな?」など、考えるきっかけを与えます。
ポイント
- 年齢や競技レベルに合わせた質問を選ぶ
- 誘導尋問や否定的な「なぜ〜」は避ける
- 建設的かつ前向きな答えが出やすい質問を心がける
特徴
- 選手が自ら分析し、気づきを得る
- 自己判断力や戦術理解を深める
活用例
- 振り返り:「今のプレーで良かった点は?」
- 自己分析:「別の選択肢はあった?」
- 改善促進:「次はどう変えたい?」
委譲(Delegate)

練習や試合の一部を選手に任せ、主体的な行動を促すアプローチです。
ウォーミングアップを任せたり、小グループでの練習を選手同士で進めさせたりすることで、リーダーシップや判断力が育ちます。
「今日のウォーミングアップを決めて進めてみて」「次の作戦はキャプテンに一任する」といった形で責任を渡します。
ポイント
- 任せた後は観察に回り、選手の動きや判断を見守る
- 放任にならないよう、必要に応じて指示・提案・質問を組み合わせる
- 委譲の経験が次の成長ステップにつながる
特徴
- 主体性やリーダーシップを育む
- チーム内での役割意識や協力関係を強化する
活用例
- 自主練習運営:「今日のウォーミングアップは君たちで決めよう」
- 戦術立案:「次の作戦はキャプテンに任せる」
- 自由課題:「小グループで新しい練習方法を考えて発表してみて」
4つのアプローチを組み合わせる
これら4つは単独で使うだけでなく、状況に応じて切り替えたり組み合わせたりすることが大切です。
- 試合終盤のタイムアウトでは「指示」が有効な場合がある
- シーズン序盤や自由度の高い練習では「委譲」が力を発揮する
- 考えがまとまらない選手には「質問」で整理を促す
- 経験の浅い選手には「提案」で選択肢を与える
最終的な目的は、選手が「やってみたい」「もっと上達したい」と主体的に動くことです。
そのために、コーチは状況を見極めながら、コーチングの引き出しを増やしていくことが求められます。
まとめ
- Tell:具体的で即時性のある行動指示
- Sell:効果を説明し、納得を得たうえでの提案
- Ask:質問によって主体的な思考を促す
- Delegate:権限を渡し、主体性を高める
4つのアプローチを状況に応じて使い分けることで、選手の成長スピードは大きく変わります。
練習中だけでなく、試合中や試合後のフィードバックでも柔軟に切り替えることが、強いチーム作りのカギとなります。
コメント