野球投手の球種と傷害リスクの関係:最新研究からの考察
肘の内側側副靭帯損傷(UCL損傷)は、野球投手にとって最も深刻なケガのひとつです。
とりわけ、メジャーリーグ(MLB)投手においては、球速や球種が影響するリスクが指摘されています。
本記事では、以下の2つの主要な研究をもとに、球種と投球頻度による傷害リスクの違いについて詳しく解説します。
メジャーリーグの球速と球種は内側副靭帯損傷のリスクと関連する
Risk-Prone Pitching Activities and Injuries in Youth Baseball: Findings From a National Sample
少年野球におけるリスクとなりやすい投球活動と怪我: 全国サンプルからの調査結果
MLB投手の球種とUCL損傷リスク
内側側副靭帯(UCL)損傷と手術のリスク
MLB投手にとって、肘のUCL損傷はトミージョン手術を必要とする場合があり、復帰までに約8~12ヵ月を要します。
しかし、手術後も元のパフォーマンスを完全に取り戻すのは容易ではありません。
靭帯の断裂まで至らなくとも、損傷や炎症を抱えたまま投球を続ける選手も少なくありません。
ストレートの投球割合とリスク
内側側副靭帯(UCL)再建術を受けたMLB投手83名が調査されました。
球種割合 | UCL再建術投手 | 健常投手 | オッズ比 | 95%信頼区間 | p値 |
---|---|---|---|---|---|
ストレート | 46.8% | 39.7% | 1.02 | 1.00 – 1.03 | 0.035** |
スライダー | 16.6% | 19.8% | 0.98 | 0.96 – 1.00 | 0.11 |
カーブ | 8.5% | 8.2% | 1.00 | 0.97 – 1.03 | 0.88 |
チェンジアップ | 10.3% | 7.9% | 1.03 | 0.99 – 1.07 | 0.13 |
球種の割合を見ると、UCL再建術を受けた選手はストレートの割合が有意に高いことが明らかとなりました。
なお、この研究では各球種(ストレートや変化球)の「球速」に危険因子につながる差はみられませんでした。
ストレートの割合が上がるほどリスクが高まる
MLB投手のストレートの球速は、UCL損傷の直接的な危険因子ではありません。
この研究では、ストレートの割合が1%増加するごとに、UCL損傷のリスクが2%増加することがわかりました。
MLB投手では、ストレートの投球割合が高いほど、UCL損傷のリスクが上昇することがわかっています。特に、ストレートの割合が1%増えるごとにリスクが約2%増加します。一方、球速自体は直接のリスク因子ではありません。
青少年野球における投球頻度と球種の影響
青少年投手における傷害リスクの調査
754名の青少年投手(9歳~18歳)を対象にした調査では、自己申告による投球活動と肩や肘の傷害の関係が多変量ロジスティック回帰により評価されました。
その結果、以下のリスク要因が「投球時の肩肘の痛み」と関連していることが確認されました。
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投球頻度の管理が重要
危険因子 | オッズ比 | 95%信頼区間 |
---|---|---|
連日の投球 | 2.53 | 1.14 – 5.60 |
1日に複数試合の登板 | 1.89 | 1.03 – 3.49 |
複数チームでの投手兼務 | 1.85 | 1.02 – 3.38 |
カーブを投げる | 1.66 | 1.09 – 2.53 |
この結果から、登板頻度がリスクに与える影響が大きいことがわかります。
青少年投手においては、カーブを投げることも一定のリスクであることが示唆されていますが、投球頻度を適切に管理することでリスクを大きく減少させられる可能性があります。
具体的には、連日の登板を避け、1日の登板数も制限することが重要です。
カーブが問題であるかは不明
この研究は、各球種が全投球数に占める割合を示した結果ではありません。
「過去12ヵ月以内にカーブを投げた」に「はい」か「いいえ」で回答する調査の結果です。
そのため、投球数に対してどのくらいの割合でカーブを投げたかのデータはありません。
また、なぜカーブがリスクとなっているかは現在のところ明らかになっていません。
登板頻度の増加は危険因子
今回の結果により球種の割合よりも、連日登板や1日に複数試合で登板するなど、登板頻度の増加がリスクであることは明らかです。
登板間隔を空けることは、青少年投手の傷害リスクを下げる上では最も重要です。
青少年投手では、連日登板や1日複数試合での登板が肩肘の痛みにつながるリスクを高めます。また、カーブを投げることも一定のリスクとされていますが、特に投球頻度の管理が重要です。
傷害予防のために注意すべきポイント
今回はMLB投手と青少年野球投手の研究論文を紹介しました。
これらの研究結果を踏まえ、野球投手が傷害リスクを軽減するために取るべき予防策には、以下のようなポイントが挙げられます。
投球頻度を抑え、球種のバリエーションを増やすことで肘や肩の負担を分散することが傷害予防につながります。また、登板間隔を確保し、リカバリー期間を設けることもリスク軽減の一助となります。
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