「そろそろ出店したい」「今後、開業を考えている」とお考えの鍼灸マッサージ師や柔道整復師、トレーナーの方も多いでしょう。
しかし、何も考えずに開業を進めると、思わぬトラブルが発生する可能性があります。
そこで今回は、全3回に分けて店舗物件の賃貸借契約までの流れを確認できるようにしました。
成功する店舗開業のためのチェックポイントを確認し、スムーズな開業を実現しましょう。
店舗物件契約までの流れ
店舗物件の契約に向けた流れは、大まかに以下のとおりです。
マンションやアパートを借りる際と大きな流れは変わりませんが、店舗物件特有の注意点もありますので、しっかりと確認していきましょう。
- 出店プランを考える
- 出店したいエリアの現地調査
- 不動産会社へ問い合わせ
- 店舗物件の内見
- 申し込み
- 契約
最終回となる第3回は「申し込み」、「契約」について解説します。
④申し込み
内見を行い、物件が気に入ったら申し込みをします。
しかし、申し込みをしたからといって即入居が確定するわけではありません。
申し込み後には入居審査が行われ、審査が通った場合に契約が成立します。
特に人気の物件では、同時に複数の申し込みがあることも多く、他の方に決まってしまうリスクがあります。
申し込みの手続き
不動産会社に申し込みの意思を伝え、所定の申し込み用紙を提出します。
この際に、会社案内や会社謄本、事業計画書、財務諸表などが必要になることがあります。
これらは、入居審査で必要な資料です。
入居前審査
不動産会社が提出した資料を基に、オーナーが審査を行います。
この際、家賃滞納リスクや事業内容、人物像(態度やレスポンスなど)を総合的に評価します。
連帯保証人ではなく、保証会社を利用する場合もあり、その場合は保証会社の審査も同時に進められます。
入居審査はマンションやアパートの審査よりも時間がかかる場合がありますので、早めに手続きを進めることが重要です。
審査後の条件交渉:条件のすり合わせ
審査が通過したら、不動産会社を通じてオーナーと入居に関する条件を調整します。
すり合わせる項目は下記のように多岐にわたる条件が含まれます。
- 賃料発生日
- 入居の時期
- 契約期間や形態
- 敷金の金額
- 工事区分・日程・規模
- 違約金
- 原状回復工事
- フリーレント(一定期間家賃が無料)
- 看板について
条件交渉後の重要事項説明
契約書締結前に、不動産会社から「重要事項説明」を受けます。
これは、物件を借りる上での重要な内容を事前に説明するもので、宅地建物取引業法に基づいて行われます。
この説明がないまま契約を締結すると、法令違反となります。
事前に内容を確認しておく
重要事項説明は、マンションやアパートを借りる際にも行われますが、店舗物件の場合、初期費用が高額であるため、その内容をしっかり理解しないと後に大きなトラブルを引き起こす可能性があります。
実務上、契約当日に初めて説明を受けることが多いですが、事前に確認しておくことが重要です。
できれば、契約の1週間前には重要事項説明の内容を共有してもらうようにしましょう。
重要事項説明で確認すべきポイント
設備に関する情報
物件内の設備に関する情報が記載されています。
不動産会社から聞いていた内容と相違がないか、また設備に不具合が生じた際の費用負担を確認しましょう。
双方の認識に相違があると、修理費用の負担を巡ってトラブルになることがあります。
契約解除の条件
借主の責任により契約が解除される条件を確認しておくことが大切です(例:倒産、滞納、火災など)。
普通賃貸借契約では契約期間満了後に更新手続きがありますが、貸主が「更新拒絶」をするケースもあります。
更新の可否や手続きについても事前に確認しておきましょう。
各金額の確認
家賃、共益費、敷金、礼金、更新料、加入する保険(借家人賠償保険や保証会社の保証料等)等の相違が無いか確認しましょう。
工事について
契約後、借主(テナント)が勝手に貸し室内の内装工事や設備工事を行うことはできません。
工事内容によってはオーナー指定の業者でなければ工事を行えないケースがあります。
以下の表に工事区分を示します。
パターン | 工事対象 | 発注者 | 業者の指定 | 費用負担 |
---|---|---|---|---|
A工事 | 物件の躯体 物件の共用部工事 | オーナー | オーナー | オーナー |
B工事 | 借主からの要望で行う物件の設備工事 共用部工事 | テナント | オーナー | テナント |
C工事 | 貸し室内の内装工事 借主の資産に分類される設備工事 | テナント | テナント | テナント |
工事を行う際には、事前にオーナーに連絡することが重要です。
オーナーへの連絡なしに工事を行うと、トラブルが発生した際に責任問題を追及される可能性があります。
原状回復工事について
原状回復工事は、退去時に貸室を入居時の状態に戻す工事です。
スケルトン(設備のみの状態)か居抜き(前テナントの設備が残っている状態)かによって基準が異なるため、細かい点まで確認が必要です。
原状回復工事は高額になることが多いため、複数の業者から見積もりを取ることをお勧めします。
⑥契約
賃貸借契約書は、普段契約書に慣れていない方にとっては、見慣れない用語が多く分かりにくいかもしれません。
重要事項説明書は不動産会社が交付するもので、契約書はオーナーとテナント間のルールを記載しています。以下のポイントを確認しましょう。
重要事項説明書との相違がないか確認する
契約締結前に重要事項説明書が交付されているはずです。
内容に相違がないか確認しましょう。
- 物件名
- 所在地
- 家賃
- 共益費
- 敷金
- 更新料
- 特約
- 解除
- 工事
各費用の額・支払い時期・方法を確認する
費用に関する詳細をしっかり確認し、納得した上で契約を進めます。
物件の引き渡し時期を確認する
引き渡し時期についても事前に確認しましょう。
契約締結
内容に問題がなければ、記名押印を行い契約締結です。
オーナーとテナントでそれぞれ1部ずつ保有し、契約期間中は大切に保管してください。
店舗物件の「2度の引き渡し」
店舗物件の契約には「2度の引き渡し」があります。
1度目は契約締結後の物件(貸室)そのものの引き渡しで、2度目は内外装工事完了後の引き渡しです。
1度目の引き渡し
1度目の引き渡しの際には、以下の点を確認しましょう。
- 居抜き物件の場合:契約書通りの什器や設備が貸室内に残っているか確認します。
- スケルトン物件の場合:残置物がないかを確認します。 設備に不具合がある場合は、速やかに不動産会社に連絡しましょう。
2度目の引き渡し
2度目の引き渡しでは、施工会社の立ち会いのもと、工事内容に問題がないかを確認します。
この時点で問題がなくても、後に不具合が生じる可能性があります。
保証期間や内容、不具合を発見した際の連絡先なども確認しておくことをお勧めします
また、建物設備の不具合については重要事項説明書に記載されている連絡先へ連絡しましょう。
成功する店舗開業のために
以上が店舗物件の契約に至るまでの大まかな流れです。
初めて見聞きする用語が多いかもしれませんが、トラブルを未然に防ぐためにも、分からないことや不安なことは遠慮なく不動産会社に質問しましょう。
事前準備を入念に行い、自分のコンセプトに沿った出店・運営を目指しましょう!
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