はじめに
ハイボルテージ治療は、学術論文では以下のように表記されます。
- HVPC:high-voltage pulsed current
- HVPS:high-voltage pulsed stimulation
機器や設定は近い概念ですが、研究ごとに条件が異なるようです。
今回の記事の要点
- 急性足関節捻挫:RCTやレビューでは「効果が小さい/臨床的に意味のある差が出にくい」が現状
- 腫れ(浮腫)抑制の“理論”:動物など基礎研究では、限られた条件での浮腫抑制が示唆。臨床へは「条件の当てはめ」が課題。
- 筋肉痛(DOMS):プラセボ対照RCTで有効性は確認されず
- 慢性期・緩徐発症のスポーツ障害
- 膝前面痛(PFPS):痛みは改善しうるが、機能面の上乗せは限定的
- テニス肘(外側上顆炎):改善報告はあるが比較対象の設計に弱点があり、決定打には不足
- 足底腱膜炎:高電圧の単相性パルス(MPC:機器は高電圧刺激器)で痛み・腱膜厚の改善報告
ハイボルテージ治療が「効く」と言われる理由
主に下記の作用が関与していることが考えられます。
しかし、「理論や基礎研究の条件」と「臨床で行われている条件」が一致しないことが多いということが重要なポイントです。
浮腫(腫れ)抑制
損傷直後の毛細血管透過性や液体移動に電気刺激が影響し、腫れの形成を抑える可能性があります。
疼痛の調整
感覚入力の変化により痛みの閾値を上げ(痛みを抑制し)、運動療法やリハビリテーションの「入り口」を作る狙いで使用できます。
足関節捻挫
急性外側足関節捻挫に対する電気刺激を整理したレビューでは、RCT(ランダム化比較試験)を中心に論文が書かれています。
これらの論文では、主にNMES(Neuromuscular Electrical Stimulation:神経筋電気刺激)とHVPSが使われています。
機能・腫脹・痛みの効果量の95%信頼区間はゼロをまたぐものが多いことから、機能改善・主張軽減・疼痛軽減の目的での電気刺激療法は推奨されないと結論づけています。
さらに、足関節捻挫(急性期)治療のアンブレラレビューでも、電気刺激について「有効性を支持する根拠はない」と記載されています。
Acute Ankle Sprain Management: An Umbrella Review of Systematic Reviews
RCT(ランダム化比較試験)については下記リンクに解説があります。
差は出にくい
受傷後2–96時間の捻挫を対象に、通常ケア(アイシング+運動)に陰極HVPC(120pps、サブモーターレベル)を30分追加したRCTでは、最終評価で有意差はないものの、陰極群が「良い傾向」を示したと報告されています。
Effect of high-voltage pulsed current plus conventional treatment on acute ankle sprain
アスリート50名を対象に、足関節捻挫受傷後72時間ほぼ連続でHVPCを当てた多施設二重盲検RCTでは、復帰までの時間短縮は確認されず、臨床的に意味のある効果はないと結論付けられました。
Effect of high-voltage pulsed current on recovery after grades I and II lateral ankle sprains
現場での結論
急性捻挫を「HVで早く治す」期待は持ちにくく、痛みで動けない/腫れが強いなど「短期の補助」に限定し、効果判定が必須です。
「腫れに効く」はどこまで本当?
HVPSの浮腫抑制は、基礎研究(主に動物実験)で条件が整理されています。
レビューでは、陰極・120pps・強め(視認できる運動収縮の約90%)、さらに180分連続または30分治療+30分休憩を4時間などの条件で浮腫形成を抑える可能性が示されています。
ただし、これは「動物で成立した条件」であり、人のスポーツ外傷で同等に再現できるかは別問題です。
ここが臨床で結果が揃いにくい理由の一つです。
遅発性筋肉痛(DOMS)
遅発性筋肉痛(DOMS:delayed-onset muscle soreness)領域は研究数自体は多くなされていますが、結論は厳しめです。
DOMSに対する電気刺激のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、14試験(n=435)を含み、エビデンスの質は非常に低い〜低いとされています。
DOMSの予防・治療、筋回復いずれにも有効性を支持しない、とまとめています。
HVPCに限ったプラセボ対照研究でも、痛み・可動域・筋力低下の改善は確認されませんでした。
Effects of sensory-level high-volt pulsed electrical current ondelayed-onset muscle soreness
現場での結論
DOMS目的でのルーティン使用は根拠が弱く、睡眠・栄養・負荷調整が優先されます。
慢性・緩徐発症のスポーツ障害
膝蓋大腿痛症候群(PFPS)
膝蓋大腿痛症候群(PFPS:Patellofemoral Pain Syndrome)のRCT(女性45名、6週間)では、HVPGSを含む群でステップアップ/ステップダウン時の痛みが良い一方、機能レベル(下肢機能スケール:LEFS)の群間差はないとされました。
足底腱膜炎
足底腱膜炎の44名のRCTでは、MPC(単相性パルス)単独と、MPC+ストレッチを比較し、両群で踵痛と腱膜厚が改善しました。
ただし併用での使用が単独より優れるとは言い切れません。
テニス肘(外側上顆炎)
HVES(パルス幅:200μs、周波数:100 Hz、電流振幅18~25 mAの範囲、電圧振幅:100 V)の研究で疼痛軽減や握力の改善が報告されています。
比較対象が「健康で未治療の患者」のため、臨床介入のRCTとしては解釈に注意が必要です。
慢性腰痛:偽治療対照RCTも出ている
慢性腰痛(CLBP:chronic low back pain)に対する単盲検RCTでは、モノポーラ型のラジオ波ダイアサーミーが偽治療より痛み・障害などで改善が示されています。
まとめ
- 論文数が最も多いのは急性外側足関節捻挫で、レビュー上は推奨しにくい。
- DOMSも、試験数はあるが結論は否定的で、エビデンスの質も低い。
- 慢性・緩徐発症は研究が少ない一方、PFPSや足底腱膜炎で「痛みの補助」としての可能性が示される。




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