論文を読んでいると、研究の方法にもいろいろあるんだね。
研究デザインによってエビデンスの信頼性も大きく変わってくるんだ。
今回は研究デザインに基づくエビデンスの信頼性について紹介するね。
わーい!
エビデンスに基づく実践(EBP)
エビデンス(根拠)に基づく医療(EBM : Evidence Based Medicine)とは、信頼できる研究結果に基づくエビデンス、医師の経験と技能、患者の価値観や以降を融合して判断し、最善の医療を提供するための一連の行動様式です。
医療従事者はこのEBMを臨床に取り入れることで、最適な医療を提供しています。
アスレティックトレーナーも医療従事者と同様にエビデンスが求められるようになり、米国のアスレティックトレーナー教育においては、エビデンスに基づく実践(EBP : Evidence Based Practice)が必修となりました。
日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)新カリキュラムにも、「アスレティックトレーナーの役割」の中に「エビデンスに基づいた運営(EBP)」として組み込まれています。
研究デザインとエビデンスの階層
研究デザインにはメタアナリシス(MA)やシステマティックレビュー(SR)、ランダム化比較試験(RCT)など、様々なものがあります。
スポーツ外傷・障害に対する研究は、受傷リスクや予防、治療、再発予防など様々なものが挙げられます。
原則として、人を対象とした研究になるため、「論説・専門家の意見や考え」や「ケースレポート:症例報告」をベースとしています。
これらの研究が多数にわたって積み上げられていくことによりエビデンスの信頼性の高い研究ができるようになります。
メタアナリシス・システマティックレビュー
ある特定の問題(疾病や治療法)に関連した論文を収集し、その内容をまとめて評価する研究デザインです。
一定の基準を満たした論文を集め、内容を厳しく評価した上で分析・統合をします。
世界中で行われた質の高い研究データを分析・統合しまとめた論文であるため、最も信頼性が高いエビデンスであるとされています。
コクラン共同計画では、このような論文をシステマティックレビューと呼び、複数の論文の結果を統計学的手法にて分析・統合した論文をメタアナリシスと呼んでいます。
メタアナリシスとシステマティックレビューの概念は極めて近く、混同して使われることもあります。
臨床診療ガイドラインは、これらの信頼性の高いMAやSRの研究に基づき作成された最上位レベルのエビデンスの信頼性をもっているものです。
システマティックレビューの論文は下記の記事で紹介しています。
ランダム化比較試験(RCT)
被験者をランダム化して、治療や予防法などを試す介入群と何もしない非介入群などに振り分け、一定期間後に両群を比較し介入効果を検証する臨床試験です。
被験者を無作為(ランダム)に振り分けることで、介入以外の要因がバランスよく分けられ、実験結果に高い公平性と客観性をもたせることができるため、得られた結果は信頼性が高いとされています。
メタアナリシス/システマティックレビューに次ぐ質の高い根拠とされる研究手法とされます。
無作為化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)とも呼ばれています。
非ランダム化比較試験
介入の効果を比較するためにグループ分けする際、くじ引きや乱数表など、作為性を排除するためのランダム化の手法を採用しない試験のことです。
対象者のグループ分けに試験実施者の作為性が入り込む可能性があるため、得られた結果の信頼性はランダム化比較試験よりも低くなります。
コホート研究
コホートとは、集団のことを意味します。
特徴の異なる集団を長期間観察して、疾病の発症率や進行の程度などを調べる研究のことです。
集団の特徴の違いから病気の原因を明らかにすることができます。
例えば、喫煙習慣のある集団とない集団を数年から数十年追跡し、病気の発症率などを比較すると、喫煙が病気の発症に及ぼす影響を調べることができます。
RCTの研究手法にてこのような調査をしようとすると、身体に害をもたらす可能性がある曝露を実験の対象者に与えることになり、倫理的な問題が生じるためコホート研究の手法がとられます。
前向きコホート研究
前向きコホート研究とは、集団をある事象に曝露している人の集団(曝露群)としていない人の集団(非曝露群)に分けて、ある一定期間追跡し、研究対象となる疾病の罹患率などを比較する研究方法です。
また、研究対象となる疾病に罹患しやすい人はどのような要因をもつのかといった因果関係を検証することを目的としています。
ケースコントロール:症例対照研究
ある疾病にすでに罹患した者の集団(被験者群)と、その疾病にかかっていないものの年齢や性別などの特徴が一致した者の集団(対照群)とを比較する研究手法です。
その疾病の原因を調べるために行われます。
すでに疾病に罹患した対象者の過去の事象を調査する研究方法を「後ろ向き研究」と呼びます。
症例対照研究では、被験者群と対照群の選択基準、既往歴や現在の健康状態に関しての除外基準などを明確にし、できるだけ症例以外の因子が研究結果に影響を及ぼさないように注意する必要があります。
医療記録(カルテや問診票など)を元に行われることが多く、費用や時間はかかりませんが、データの偏りが生じて結果に影響を及ぼす可能性があるので、得られた結果の信頼性はランダム化比較試験に比べると低くなります。
ケースシリーズ:症例集積報告
ある介入(治療方法など)を、何名かの疾病に罹患した者に用いて、経過や結果を観察し、そのデータをまとめて報告したもので、記述研究の一つです。
ケースシリーズでは対象となった対象者の数は多くなっても、結果を比べる対照を設けていないことが多いため、症状の改善や副作用の発現などがその介入によるものかどうかを明らかにすることはできません。
そのため、他の分析的研究よりもエビデンスレベルは低いとされています。
ケースレポート:症例報告
ある疾病の罹患者、あるいは類似する複数の症例を評価した報告のことです。
症例数の少ない未知の問題についての報告であり、臨床では非常に重要な情報となることがあります。
新型コロナウイルス感染症についての研究も、これらのケースレポートから開始されています。
未発表の臨床所見
「学術論文として発表されていない臨床的観察」や「論説」、「専門委員会の意見」、「専門家個人の意見」を意味します。
未発表の臨床所見は、臨床研究の土台であり、重要な最初のステップでもあります。
横断研究
特定の対象者に対して、ある一時点において観察されたデータをもとに検討を行う研究です。
アンケートやインタビューなどを通して、ある健康問題の保有率や疾病の罹患率などについて調査を実施します。
横断研究では、対象者に対する追跡調査や実験的介入を行わないので、因果関係の検証には適しません。
しかし、多くの時間や費用をかけずに調査対象者の現時点での実態を把握し、研究対象となる疾病に関連する要因について推測することができるという利点があります。
アウトカム研究
健康管理や医療行為の成果・結果を評価する前向き研究です。
アウトカムとはある物事を行った後に生じた現象、つまり結果のことです。
臨床にて取り扱うアウトカムは、関節可動域・弛緩性、周囲径、骨密度などの「疾病指向のアウトカム(disease-oriented outcomes)」と、自己申告によって評価された(主観的な)体調の良さ、身体機能、生活の質(QOL)などの「患者指向のアウトカム(patient-oriented outcomes)」があります。
論文を読もう!
論文の探し方や、日本語への翻訳方法は下記の記事で紹介していますのでご覧ください。
システマティックレビューやメタアナリシスは信頼できるということだね。
それも一概には言えないんだ。
論文を読む際にはクリティカルシンキングを大切に。
物事や情報を無批判に受け入れるのではなく、多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解することが重要なんだよ。
これについては、今後の記事で紹介していくね。
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