スポーツ外傷・障害の予防への介入効果
今回は、BJSM The Journal of Sport & Exercise Medicineに2014年に掲載された論文を基に、スポーツ外傷・障害の予防に対する運動介入の効果を解説します。
この研究は、無作為化対照試験のシステマティックレビューとメタアナリシスを行ったもので、具体的には「スポーツ傷害予防のための運動介入の有効性」となります。
研究の概要
この研究では、PubMed、EMBASE、Web of Science、SPORTDiscusから検索された3,462件の論文から、スクリーニングを経て25件の研究を抽出しました。
対象となったのは26,610名の参加者で、3,464名が負傷者です。
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結果の分析
この研究では、ストレッチ、固有受容器トレーニング、筋力トレーニング、それらの組み合わせの論文に分類し効果を判定しています。
結果のプロット図は下記の通りです。
RRは Relative Risk (直訳で相対的リスク)、つまりリスク比のことです。
介入エクササイズ | リスク比 | 短評 |
---|---|---|
ストレッチ | 0.963(0.846-1.095) | 有意な予防効果は確認されされなかった |
固有受容器トレーニング | 0.550 (0.347–0.869) | やや有意な予防効果があったが、ばらつきが存在した |
筋力トレーニング | 0.315 (0.207–0.480) | 最も高い予防効果を示し、傷害発生リスクを3分の1以下に削減した |
複合的トレーニング | 0.655 (0.520–0.826) | 有意な予防効果を示したが、結果にはばらつきが見られた |
筋力トレーニングの重要性
この研究から、筋力トレーニングがスポーツ外傷・障害のリスクを約70%も低減(相対リスク0.315、95%信頼区間0.207–0.480)するという圧倒的な結果が確認されました。
つまり、筋力トレーニングを行うことで、スポーツ外傷・障害のリスクを1/3にまで減少させることが証明されました。
ストレッチの効果は薄い
対照的に、ストレッチのリスク比は0.963であり、スポーツ外傷・障害の発生リスクがほとんど変わらないことを示しています。
この結果は、ストレッチが外傷・障害の予防に対して効果が薄いことを示唆しています。
固有受容器トレーニングの効果
固有受容器トレーニングのリスク比は0.550であり、スポーツ外傷・障害のリスクを45%低減することが期待できます。
代表的な種目は片脚立ちバランス
この論文の中で固有受容器トレーニングは、関節固有感覚および/または関節安定性の改善を目的としたエクササイズと定義されています。
これは簡単に言うと、片脚立ちでバランスを取るようなトレーニングを代表とするものです。
関節の位置感覚や、足の裏から感じる重心位置を認知、判断し、身体各部の位置、筋出力の程度、方向の調整を行いながら身体バランスを取ります。
このように、自分の体の感覚を駆使し、出力の調整を行うようなトレーニングのことを固有受容器トレーニングと言います。
複合的トレーニングの可能性
複合的トレーニングは「筋力トレーニング、固有受容器トレーニング、ストレッチの組み合わせ」のことです。
35%程度リスクを低減しており、スポーツ外傷・障害を2/3まで減らす予防効果が期待できるといえます。
多くのスポーツ傷害予防プログラムは複数の運動法を組み合わせて実施されますが、本メタ分析によると、これらのプログラムは単一の運動法に比べて効果が薄れる傾向があることがわかりました。
特に、複合的プログラムは各要素が十分に機能しないことが多く、また参加者の遵守率(コンプライアンス)が低下しやすい点が課題です。
したがって、複合プログラムを設計する際は、効果が証明された単一の運動(例:筋力トレーニング)を基盤として組み合わせることが重要であり、今後もこうした単一要素の研究が求められるとされています。
筋力トレーニングが最も効果的な理由
筋力トレーニングがスポーツ外傷・障害の予防において最も効果的である理由について、研究者らはその運動の基礎的な強化効果に注目しています。
筋力をつけることで、関節や筋肉の安定性が向上し、運動中の怪我のリスクが大幅に低下することが期待されます。
さらに、筋力トレーニングは他のトレーニング方法よりも効果のばらつきが少なく、より一貫した効果が得られるという点でも優れています。
発症機序別のリスク比
筋力トレーニングはスポーツ外傷・障害の予防に有効であることが示されています。
急性外傷に対するリスク比は0.647、慢性障害に対するリスク比は0.527です。
これらの結果は、定期的な身体活動が外傷や障害の予防に寄与することを示唆しています。
種別 | 発生機序 | リスク比 | 短評 |
---|---|---|---|
スポーツ外傷 | 急性・突発的 | 0.647 (0.502–0.836) | 予防効果が認められたが、ばらつきが高く解釈に注意が必要 |
スポーツ障害 | 慢性・使いすぎ | 0.527 (0.373–0.746) | 予防効果は高く、ばらつきは低い |
結論:筋力トレーニングが鍵
この研究では、筋力トレーニングがスポーツ外傷・障害の予防において最も効果的な介入であることが示されました。
また、複合的プログラムも適切に設計されれば予防に有用であることを示しています。
急性発症と使い過ぎによる発症のどちらに対しても予防効果が確認され、スポーツ外傷・障害の予防の実践的な戦略としての価値が高まることが示唆されています。
特に、筋力トレーニングを単独で行うことで、複合的トレーニングよりも高い予防効果が得られることは、トレーナーやコーチにとって重要な知見です。
アスリートのケガのリスクを減少させるためには、筋力トレーニングを優先的に取り入れることをお勧めします。
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