トレーナーってケガの処置や対応が早いよね。
スポーツ現場でのケガの評価から処置までを迅速に行う訓練をしているからね。
救急処置はアスレティックトレーナーの実技試験の一つでもあるんだ。
どんなことを考えながら処置しているの?
まずは緊急度の高いものを常に想定し、救急車や医療機関への搬送の必要性を確認するんだ。その必要性がなければ、どんなケガなのか細分化して鑑別しているんだ。
鑑別ができたら、選手にも説明し、必要な処置をしていくよ。
これからトレーナーとして活動していきたいから、教えてほしいな。
今回は救急対応中にトレーナーがどんなことを考えながら対応しているのかを紹介します。
JSPO-AT実技試験の内容も加味しながら紹介していきますね。
わーい!
救急対応を実践する上での注意
救急対応では、以下のことに配慮しましょう。
・診断しない
・投薬や治療をしない
・インフォームドコンセント(十分な説明をした上で同意を得る)
・重篤な疾患を見逃さない
・悪化し得ることは避ける
・処置後は医療機関を受診してもらう
医師法を遵守
私たち医師免許のない者が行う救急対応は、治療ではなく、あくまで初期対応です。
診断、投薬、治療は医師が行います。
万が一、上記のことが行われた場合、医行為(医療行為のこと)をしたとみなされ、医師法違反となります。
一次救命処置(BLS)
意識障害や心肺停止状態のケースもあり、状況に応じて救急車を呼ぶこともあります。
救急車を待つ間にも一次救命処置(BLS:Basic Life Support)を行います。
BLS資格を取得またはBLS講習を受講したスタッフや選手が多いことや、AED(自動体外式除細動器)が近くにあることで、救命率が格段に上がります。
緊急時対応マニュアル
以上のようなことを想定し、緊急時対応マニュアルを作成し、周知しておくと良いでしょう。
一秒を争うような事態は、マニュアルが周知されているか否かで深刻さが変化することもあります。
いざ救急車を呼んだものの、救急車が入るルートを想定していなかったり、AEDの場所を誰も知らなかったりすることがないよう、定期的に見直しブラッシュアップしていきましょう。
救急対応の流れ
上記のことが確認できた上で、救急対応の流れをみていきましょう。
評価する
評価はトレーナーとして最も重要なスキルです。
評価によって、どんなケガであるのか、どんなケガは除外できないのかを明確にします。
これにより、患部の固定や扱い方、RICE処置が必要であるか否かが判断できます。
- STEP1意識レベルの確認
- STEP2問診
- STEP3患部の露出
- STEP4視診
- STEP5触診
- STEP6骨の異常の確認
- STEP7関節運動の確認
- STEP8筋力発揮時/筋伸長時痛の確認
- STEP9スペシャルテスト(整形外科的テスト)
- STEP10選手への説明と同意
意識レベルの確認
トレーナーが受傷機転を見ていたか、見ていなかったかにより声のかけ方も変わりますが、今回は見ていなかったことを想定します。
面識のある選手の場合は「どうしたの?」「何があったの?」で良いと思いますが、初対面の選手の場合「トレーナーの〇〇です。どうしましたか?」と声掛けします。
声掛けした時の視線や表情、動き反応や返事などの状況をみて、意識レベルを判断します。
この時の言動に違和感を感じた場合は、意識障害を疑います。
問診
意識レベルが正常であれば、問診をとります。
問診内容は、主に下記の4点です。
問診内容 | 聞き方 | 選手に求める回答内容 |
---|---|---|
受傷機転 | どのように痛めた? | ひねった方向や、痛みを感じた瞬間 |
疼痛部位 | どこが痛い? | 手が届く部位であれば人差し指一本で示してもらう |
痛みの種類 | どのように痛い? | 疼く痛み、外れた感じ、不安感 |
疼痛増悪因子 | どうすると痛い? | 体重を掛けると痛い、ひねると痛い、力を入れると痛い |
患部の露出
問診内容からどんな外傷であるのかを想定し、視診や触診をしていきます。
衣服や靴で隠れている場合はめくったり、脱がせたりして、受傷部位を露出します。
その際、気を付けることは下記の2点です。
・患部を露出する必要性について説明し同意を得る
・患部を愛護的に慎重に扱う
急いでいて、同意を得ずに体に触れてしまうようなケースは、トレーナー側に悪意がなかったとしても、選手が不快な思いをすることもあります。
必ず十分に説明をしたうえで同意を得ましょう。
視診
患部を露出させたら、左右ある部位の場合は見比べながら視診していきます。
大きな変形
出血
内出血・皮下出血
発赤
腫脹
触診
触診についての同意を得たら、急性炎症反応の一つである、局所の熱感がないかを確認します。
その際、患部を圧迫しないよう、手背などを使って局所温度の左右差を確認します。
また、疼痛部位についても触診で確認しておきます。
圧痛(押圧した時の痛み)に関しては、徐々に圧していき、選手が痛みを感じたらすぐに除圧できるようにしましょう。
骨の異常の確認
部位や受傷機転によってはタップテストやスクイーズテストで、骨に異常がないか確認します。
同じ骨でも、受傷部位から遠いところを振動させたり、たわませたりして患部に強い痛みが出るようであれば、骨の異常を疑います。
関節運動時の確認
可能であれば、関節運動を確認します。
自動運動を中心に、必要であれば他動運動で確認します。
筋の損傷が疑われる場合は、単関節筋と多関節筋を配慮しながら鑑別していきます。
関節運動中に痛みや違和感、不安感を感じたらすぐにやめましょう。
筋力発揮時/筋伸長時痛の確認
筋挫傷や筋挫滅、打撲などの筋損傷や腱損傷が疑われる場合、筋力発揮時やストレッチ時に痛みが出ないか確認します。
筋に力が入らない場合、痛みによるものなのか、そうでないのかも確認しておきましょう。
スペシャルテスト(整形外科的テスト)
ここまでくると、どの部位にどのような問題が生じているのかを判断できます。
評価の最後はスペシャルテスト(整形外科的テスト)を行い、陽性か陰性で判定します。
念のため、他の「疑わしいが除外しきれない傷害」についてもここで判定していきます。
選手への説明と同意
ある程度鑑別ができたら、疑わしい傷害についての説明をします。
しかし、診断のように特定した形で説明することは絶対にやめましょう。
あくまで、疑わしい傷害であって、その診断と治療をするのはスポーツドクターです。
そのため、これから行う処置は救急処置であって治療ではないこと、スポーツドクターによる診断や治療を受けたり指示を仰いだりする必要があることをはっきりと説明しておきましょう。
また、急性炎症を伴うスポーツ外傷の場合、RICE処置の必要があることと、RICE処置の内容について説明し、同意を得ましょう。
RICE処置
鑑別が終わり、これから行う処置について説明し、競技者モデルから同意が得られたら、RICE処置に取り掛かります。
アイスパックをつくる
フレークアイスやキューブアイスなど、部位に応じた氷を使い分けます。
ビニール袋や氷のうに入れ、体表に密着できるよう、極力空気を抜きます。
バンデージやアイシングラップで固定する
患部を悪化させない肢位で安定させ、患部にアイスパックまたは氷のうをあてがい、バンデージで固定します。
バンデージの張力は、患部が適度に圧迫されていることと、末梢の血流障害や神経障害が起こらないことに配慮します。
挙上する
急性炎症による腫脹を少しでも和らげるために、患部を心臓より高い位置に保持します。
臥位(寝た姿勢)や座位など、挙上していても安定して安静を保てる姿勢をみつけましょう。
説明
RICE処置は20分ほど行います。
20分後に外したのち、再び急性炎症症状が出現するようであれば、RICE処置を繰り返します。
患部の低温状態による障害も加味すると、間隔は1時間ほど空けた方が良いです。
症状の程度にもよりますが、急性炎症は48~72時間続くといわれています。
この間はRICE処置を繰り返し行うことにより、急性炎症による局所の二次的障害(低酸素状態による悪化等)を防ぐことができます。
また、できるだけ早くスポーツドクターのいる医療機関を受療することを勧めます。
PEACE & LOVE
RICE処置に代わる新しい概念として「PEACE & LOVE」があります。
詳しくは下記の記事を参考にしてください。
こんな感じです。
結構簡単そうにやっているから、もっと簡単にできると思っていたよ。
救急対応はその時に生じていなかった痛みが後から出てきたり、RICE処置だけでは痛みが治まらなかったりすることもあるんだ。
いろいろなリスクも潜んでいるから、必ず医療機関を受診してもらうようにしているよ。
とりあえずアイシングについてもう少し詳しく知りたいな。
アイシングの手法については、下記の記事を参考にしてみてね。
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