スティッキングポイントは挙上困難点
スティッキングポイントは、挙上の可動範囲(ROM)の中で最も挙上が困難となるポイントです。
レジスタンストレーニングの世界では「sticking point」だけでなく「sticking region(スティッキング領域)」と表現されることもあります。
つまりは、リフト中において難易度が急激に上昇するポイント(領域)のことです。
フォーストレップ法(補助者がついて強制的に反復回数を継続する方法)を用いる際、通常、補助者はこのスティッキングポイントを通過させることのみが求められます。
スティッキングポイントを理解するためには、フルレンジとパーシャルレップの違いを認識しておく必要があります。
フルレンジは全可動範囲
1レップ(repetition:挙上回数)ごと、全可動範囲で動作することを「フルレンジ」と呼びます。
「full range」は直訳すると全範囲という意味です。
レジスタンストレーニングは、通常「フルレンジ(全可動範囲)」で行うことを原則としています。
フルレンジの例
ベンチプレスでは、バーが胸部に接するとことまで降ろし、肘を伸ばしきるところまで挙上します。
パラレルスクワットでは、大腿部が床と平行になるまでしゃがみ、膝を伸ばしきるところまで挙上します。
スクワットについては、もも裏とふくらはぎが接する位置までしゃがむ「フルスクワット」までいかなくとも、「ハーフスクワット」や「パラレルスクワット」がフルレンジにあたります。
パラレルスクワットはのparallelは平行という意味で、大腿部が床と平行になるまでしゃがむスクワットのことです。
パーシャルレップは可動範囲の一部
可動範囲の一部分に限定して挙上する方法を「パーシャルレップ」と呼びます。
「partial」は直訳すると部分的、一部という意味です。
スティッキングポイントを超えない範囲で行うのがパーシャルレップの特徴です。
(一部例外として、スティッキングポイントのみでパーシャルレップを行う方法もあります。)
パーシャルレップの例
ベンチプレスでは、バーを胸につけないところまでの反復、またはバーを胸につけたところからスティッキングポイント手前までがパーシャルレップです。
スクワットでは、クオータースクワットのようにかなり浅い範囲でのスクワットがこれにあたります。
トレーニング中上級者は体感している
フリーウエイトトレーニングで、最大に近い重量を挙上する際や、最大に近い挙上回数を迎える際には「スティッキングポイント」を感じます。
スクワットやベンチプレスにおいては、ボトムポジションから少し挙上したところにあり、挙上時に最も力が入りにくく、最も速度が低下します。
マシントレーニングの場合は、マシンによってスティッキングポイントあたりの負荷を軽減しているものも多いため、実感しにくいかもしれません。
一般的な sticking point は「行き詰まり」や「障害」を意味します。
今回は下記論文とサイトを引用します。
Understanding and Overcoming the Sticking Point in Resistance Exercise
Partial vs. Full Reps…or Both?
フルレンジの方が効果大
複数の論文から、筋肥大、筋力、パワーの要素においてパーシャルレップと比較してフルレンジの方がトレーニング効果が大きいことがわかっています。
エクササイズ種目 | 指標部位 | 効果指標 | フルレンジ/パーシャルレップ比較 |
---|---|---|---|
スコットカール | 上腕 | 筋肥大 筋力 | フルレンジの方が効果大 |
スクワット | 大腿四頭筋 | 筋肥大 筋力 パワー | フルレンジの方が効果大 フルレンジの方がジャンプ高も効果大 |
レッグエクステンション | 大腿四頭筋 | 筋肥大 筋力 | フルレンジの方が効果大 |
ベンチプレス | 上肢 | 筋力 | フルレンジの方が効果大 |
バックエクステンション | 脊柱起立筋 | 筋肥大 | 同等の効果 |
なお、体幹のトレーニングについては、フルレンジでもパーシャルレップでも同等の効果であったようです。
スティッキングポイントの定義
フルレンジの最大の敵とも言える、スティッキングポイント。
このスティッキングポイントを超えるか超えないかが重要な点であると考察されています。
スティッキングポイントについては画一的な定義がありません。
ここではいくつかの論文をもとにした定義を紹介していきます。
挙上速度低下ポイント
最も広く引用されているスティッキングポイントの定義の一つは、「負荷の上昇速度が減少するかゼロになる運動中の可動域のポイントである」と理解されています。
力が伝わりにくいポイント
全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)は「スティッキングポイントは運動の可動域における最も弱い点」と定義しています。
力学的に不利なポイント
スティッキングポイントは、負荷に対して有効な力を発揮するために力学的に不利な位置であることでほとんど説明できると主張しています。
スティッキングポイントが影響する要素
スティッキング・ポイント(または領域)の発生要因は、論文によってさまざまです。
スティックポイントには、下記の要素が影響すると考えられています。
- 筋の解剖学的断面積
- 力 – 長さ関係
- 力 – 速度関係
- 疲労
- 運動単位の採用
- 筋線維タイプ
- トルク発生に影響する生体力学的要因
最大挙上(いわゆる最大1反復回数:1RM)では、「筋の活性化」は重要な要因ではないようです。
挙上重量のボトルネックに
スティッキング・ポイント(または領域)は、1RMや最終挙上回数のボトルネックとなっています。
つまりスティッキング・ポイントを超えるか超えないかで1RM挙上重量や挙上回数が決まります。
パワーリフティング競技においては、いかにしてスティッキングポイントを超えるかが勝負の境目となっています。
各競技動作でのスティッキングポイントは?
各競技の動作においても、スティッキングポイントは存在しています。
ただし、競技動作は反動や慣性、遠心力といった力をフルに使いこなします。
これはトレーニングでは「チート」や「チーティング」とよばれる動作です。
アスリートは競技動作の中で、スティッキングポイントを「チーティング」によって上手にカバーしたり回避したりしています。
競技動作においては「チーティング」でスティッキングポイントを回避しているとはいえ、アスリートもトレーニングの際は必ずスティッキングポイントを超える必要があります。
スティッキングポイントは安全の目安
トレーニングではフルレンジを原則とし「スティッキングポイントを超えられた挙上重量、回数が限界点」とすることで安全にトレーニングを遂行できます。
逆に言えば、「スティッキングポイントが超えられない挙上重量、回数は危険」と考えても良く、傷害のリスクを高めます。
スティッキングポイントを上手に使う
スティッキングポイントはネガティブな表現に聞こえます。
しかし、ポジティブに使うことで安全かつ効果的にトレーニングを行うことができます。
皆さんもスティッキングポイントを超えるフルレンジでトレーニングライフを楽しんでください!
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