筋収縮にはATPが必要
運動は筋肉を収縮させることにより実現します。
筋収縮は、筋線維がエネルギーを利用することにより達成されますが、そこで必要とされるのがアデノシン3リン酸(ATP)と呼ばれるリン酸化合物です。
ATPは加水分解する際に、リン酸(P)を1つ切り離し、アデノシン2リン酸(ADP)になり、この際に筋収縮のためのエネルギーを放出します。
ATP貯蔵は約2秒で尽きる
ATPは筋線維内に貯蔵されており、ATP貯蔵(ATP stores)といいます。
ATP貯蔵は約2秒の筋収縮に必要な程度しか貯蔵されていません。
しかし、ATP-CP系、解糖系、有酸素系の3つのエネルギー供給機構によって、筋内のATP濃度は維持されています。
これにより、高強度の運動でも継続することが可能となっています。
画像右上はスマートフォンの電池容量に置き換えて表現しています。
ATPをスマートフォン内に搭載されているバッテリーに例えると、フル充電された搭載バッテリーは2秒で力尽きることになります。
エネルギー供給が必要
そこで登場するのがエネルギー供給機構です。
下記の通り大きく3分類に分かれています。
運動開始後は、筋収縮のためのエネルギーを得るために、これらの機能によってATPを供給し続けています。
エネルギー供給機構 | 酸素利用 | 供給時間 | エネルギー源 |
---|---|---|---|
ATP-PC系 | 無酸素 | 8秒 | クレアチンリン酸 |
解糖(乳酸)系 | 無酸素 | 33秒 | 筋グリコーゲン、血中グルコース |
有酸素系 | 有酸素 | 60秒以上 | 酸素、基質(炭水化物、脂質、たんぱく質) |
ATP-PC系は約8秒で尽きる
このエネルギー供給システムは、高強度の短時間の活動で使われます。
陸上競技の投擲や跳躍、重量挙げ、相撲、アメリカンフットボールなどに求められるハイパワーの運動に動員される代謝系です。
筋線維内にはクレアチンリン酸(CP)が貯蔵されています。
ADPは、CPがクレアチンとリン酸に分解される際のエネルギーを利用してリン酸と結合しATPに再合成されます。
この過程は非常に迅速で、即座に利用可能なエネルギーを提供しますが、クレアチンリン酸の貯蔵量には限界があり、比較的短時間しか持続しません。
解糖系は33秒で尽きる
このエネルギー供給システムは、高強度の30~60秒の運動で使われます。
陸上競技の400mや競泳の100m、自転車競技の500mや1km、スピードスケート500m、スキーのスラロームなどに求められるミドルパワーの運動中に動員される代謝系です。
筋線維の中にはグリコーゲン(糖)が貯蔵されています。
解糖系はグリコーゲンがピルビン酸へと変換される過程で、酸素を必要としない無酸素性エネルギー供給機構(無酸素性代謝)によってATPが再合成します。
実際には長時間続くような持久力が求められる場面でも、血中グルコースを用いて有酸素性エネルギー供給機構(有酸素性代謝)によって機能します。
30秒程度の瞬発的な競技で解糖系は、持久力を必要とする活動や、短時間でのエネルギー需要を満たすために重要です。
解糖系では乳酸ができる
解糖系でグリコーゲンがピルビン酸に変換されることは前述の通りです。
ピルビン酸は酸素供給が十分であれば有酸素系のTCA回路に入ります。
比較的短時間の激しい運動では、ピルビン酸の生成量が一気に上昇し、酸素の供給が間に合わないことがあります。
この時に、TCA回路に入って代謝されずに余ったピルビン酸が水素と結合することで乳酸が生成されます。
乳酸値が上昇すると局所的にアシドーシス(酸性化)をきたして、運動(筋収縮)継続が困難となります。
有酸素系は酸素と基質が尽きるまで
このエネルギー供給システムは、低強度の60秒以上の持続的な運動で使われます。
陸上や競泳の長距離、マラソン、トライアスロン、自転車競技のロードレース、クロスカントリーなどに求められるローパワーの運動中に動員される代謝系です。
有酸素系は基質(炭水化物、脂質、たんぱく質)を酸素によって分解し、最終的な代謝産物の水と二酸化炭素を生成する過程においてATP再合成のためのエネルギーを供給します。
酸素が利用可能な場合(持久的な活動や低強度の運動)でエネルギーを供給します。
段階 | 過程 | 生成 |
---|---|---|
第1段階 | 炭水化物 → グリコーゲン 脂質 → 脂肪酸 たんぱく質 → アミノ酸 | アセチルCoA |
第2段階 | TCA回路 アセチルCoAを分解 | 二酸化炭素 水素原子 |
第3段階 | 電子伝達系 水素原子を補酵素の働きにより還元 酸化的リン酸化の過程でATP再合成 |
競技やポジションによって異なる
競技やポジションなどによって要求されるエネルギー供給機構が異なります。
要求されるエネルギー供給機構を的確に強化することで、最大のパフォーマンスを発揮することが可能となります。
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