マッスルメモリーとは?筋肉が過去のトレーニングを記憶するメカニズム

マッスルメモリーとは|筋肉が過去のトレーニングを記憶するメカニズム 論文まとめ
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筋肉の記憶

マッスルメモリー(muscle memory:筋肉の記憶)とは、過去に行ったトレーニングによって筋肉の構造や機能が記憶される現象を指します。

研究論文によると、筋肉細胞の核である「筋核(myonuclei)」の数が、過去のトレーニングの成果を反映することが示されています。

今回は下記の論文に基づいて「マッスルメモリー」について解説します。

Muscle memory and a new cellular model for muscle atrophy and hypertrophy

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マッスルメモリーは筋核がカギ

筋肉が成長するとき、筋線維にある筋核(筋細胞の核)の数は増えます。

この筋核は、筋サテライト細胞という前駆細胞から供給されます。

筋肥大には筋核の増加が不可欠とされており、筋線維が大きくなるためには新しい筋核を獲得し、筋核の数が筋細胞の成長を支える役割を果たします。

しかし、筋肉が萎縮する場合でも、増えた筋核は失われず、筋肉が再び成長するときには新たに筋核を獲得する必要はありません。

これが「マッスルメモリー」につながります。

筋肉が一度成長すると、筋核の数が維持され、その後の成長が速くなる可能性があります。

これを「再トレーニングルート」として、筋核を新たに増やさずに速やかに筋肥大が進行すると提唱されています。

筋肉が萎縮しても獲得した筋核は維持される
再トレーニング時には新たな筋核を獲得せずに速やかに筋肥大が進む

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筋肉の記憶「履歴」

マッスルメモリーは、過去に筋肉が最大限に成長した際に獲得した筋核の数に基づくと説明しています。

これを「ピークペグ仮説」として、筋核の数は筋線維が最大に成長した時点を記録するように働き、その後の成長はその最大値を越えない限り、新しい筋核を必要としないとしています。

これにより、筋肉の成長・萎縮のサイクルを繰り返すことで、筋核の数が増え、将来の再成長が容易になります。

特に、萎縮した筋肉でも筋核が残るため、再び筋肥大を促すときには迅速な成長が期待できるというモデルが提案されました。

これは、筋肉の「履歴」が細胞レベルで保持されているためであり、以前に大きくなった経験が再度活用されます。

マッスルメモリーの持続期間

動物実験に基づくマッスルメモリー

マウスを用いた実験では、テストステロンの短期間(2週間)投与を行った結果、筋肉のサイズと筋核の数が増加しました。

薬剤投与を中止した後、3週間後には筋肉のサイズは元のレベルに戻りましたが、筋核の数は高いままで維持されました。

この状態は、マウスの寿命の10%以上の期間にわたって持続し、その後の筋肥大は速く進行することが示されました。

この実験から、筋核の増加が筋肉の「記憶」として働き、薬物の使用を中止した後も筋肉に有利な効果が長期間持続することが確認されました。

人間におけるマッスルメモリー

ヒトに関しては、14C(炭素14)の放射能測定を利用したスウェーデンの研究によると、筋核の平均寿命は約15.1年であることが示されています。

ただし、この数値は低めの推定値である可能性があります。

これは、筋肉の核の寿命はおそらく15年から人間の生涯にわたって持続する可能性があるとされています。

脳や心臓の細胞とは異なり、筋肉は損傷を受けやすく、頻繁に修復されるため、新しい筋核が長期間にわたって維持されるかはまだ確定していませんが、筋肉の記憶が長期間持続する可能性は示されています。

筋核の平均寿命は短くても約15.1年ほどある可能性
筋核は一度形成されると長期間保持され、筋肉の成長や修復に寄与する

高齢者への応用

高齢者は筋力トレーニングにって筋核を新たに生成する能力が低下し、筋肥大の能力も弱まります。

若い時期に筋トレを行って新しい筋核を獲得しておけば、高齢期に筋肉量を維持するのが容易になる可能性があります。

これが健康寿命を延ばす手段として期待されています。

ドーピングへの影響

テストステロンなどのホルモンを用いた場合、マッスルメモリーが強化される可能性があり、過去の使用が今後のトレーニング成果に影響を与えることが示されています。

これは、スポーツ界におけるドーピング規制にも影響を与える可能性があります。

短期間のステロイド使用でも長期にわたって筋肉の成長に影響を与えることが確認されれば、ドーピング違反者への排除期間を再検討する必要があるかもしれません。

これは、スポーツの公正性を守るための重要な課題です。

今後の研究課題

テストステロンによる筋肉の記憶効果は確認されていますが、運動だけでも同様の筋肉の記憶が形成されるかについては、さらなる研究が必要です。

さらに、筋核の増加以外にも、エピジェネティクス(DNAやヒストンの修飾)の仕組みが筋肉の記憶に関与している可能性があり、これらの研究が進めば、筋肉の成長や適応のメカニズムがより深く理解されるでしょう。

結論

筋核が筋肉の成長や記憶に重要な役割を果たしていることが示され、これがスポーツ科学や健康に大きな影響を与える可能性があります。

マッスルメモリーを活用することで、高齢者の筋力低下の予防や、スポーツにおけるドーピング規制の見直しが期待され、今後の研究と実践において重要なテーマとなるでしょう。

論文まとめ
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