今回はスポーツにおけるリカバリー戦略について心理的アプローチ・睡眠・治療の視点からみていきます。
過密な試合スケジュールや、練習、合宿などにおいて、身体疲労や精神疲労、パフォーマンス低下から素早く回復することは重要です。
心理的アプローチ・睡眠・治療による疲労回復
競技スポーツ、特にサッカーや野球、バスケットボール、ラグビー、テニス等の球技においては、スプリント、ジャンプ、シャッフル、急速な方向転換などの爆発的な動作の繰り返しがあり、競技によっては投げる、打つ、衝突するなどの競技特有の動作も含まれています。
トップレベルのアスリートは、リカバリー(身体的/精神的疲労およびパフォーマンス低下からの回復)時間が限られている中で、連続した試合を行うことが頻繁に求められます。
練習や試合、トレーニングセッションの後に十分な回復を確保するためには、誘発される疲労の種類と、その根本的なメカニズムを知り、リカバリーを最適化することが特に重要です。
今回は心理的アプローチや治療を中心に、バスケットボール、ラグビーのナラティブレビューの研究論文を参考に実用化につながる情報を紹介します。
Evidence-based post-exercise recovery strategies in basketball
Evidence-based post-exercise recovery strategies in rugby: a narrative review
エビデンスに基づくリカバリー
最適な疲労回復は、身体的および心理的な状態の回復につながることが示されています。
スポーツ外傷・障害の予防、リカバリーの支援、アスリートの最適なトレーニングの手順を確立することが重要です。
科学的な文献では、リカバリーを促進するために使用される相当数の回復方法が議論されていますが、これらのアプローチの多くの利点について、コンセンサスが得られていません。
心理的アプローチ
心理的アプローチには、目標設定、イメージ、リラクゼーション技術、モチベーション、セルフトークが含まれます。
セルフコントロールの向上は、不安の悪影響を軽減し、プレッシャーの高い環境でのプレーヤーのパフォーマンスを向上させることが実証されています 。
一方、セッションのRPE(Ratings of Perceived Exertion:自覚的運動強度)は、内部負荷をモニタリングするための有効なツールであるようです。
これらの反応は、コーチが適切な負荷を計画し、回復とパフォーマンスを最大化するのに役立ちバーンアウト(燃え尽き)症候群の予防につながります。
トップアスリートと心理的アプローチの関連性を確立するには、研究が不足しています。
休息と睡眠
アスリートの睡眠時間の確保は、スポーツのパフォーマンスに大きな影響を与えます。
大学ラグビー選手を対象とした調査では、睡眠不足が試合後の回復に悪影響を与えると結論付けられています。
特に身体パフォーマンス(カウンタームーブメントジャンプなど)や認知機能を損なうことがわかっています。
これらの研究では、選手がホームゲーム後に著しく睡眠を減少させることを示しており、または西方に向かう長距離移動が主観的な時差ぼけと睡眠反応を悪化させることを示しました。
トレーニングを最適化し、試合のパフォーマンスを向上させるために、個別に試合後の適切な睡眠パターンを確立させたり、睡眠不足後の変化した身体的および認知的状態に対応するために、練習量やトレーニング量を調整する必要があります。
また、睡眠量に関して客観的な手段が利用できない場合には、主観的な尺度を使用することが支持されています。
NBAのロックアウト後の最後のシーズンでは、選手へのインタビュー調査では、睡眠時間の損失を補うために多くのことをしておらず、代わりに凝縮したシーズンの影響を感じていることが明らかになりました。
Steenland and Deddens(1997)が実施した調査では、NBAの8シーズン8,495試合の移動と休息がパフォーマンスに及ぼす影響を分析した結果、試合間の時間が長いほどパフォーマンスが有意に向上し、この効果は時間の経過とともに一定になることが確認されました。
2011年に米国スタンフォード大学男子バスケットボール選手11名を対象とした研究では、睡眠が伸びたとでスプリントタイム、フリースロー率(9%増加)やスリーポイント決定率(9.2%)などのシュート精度、反応時間が改善したと結論づけました。
The Effects of Sleep Extension on the Athletic Performance of Collegiate Basketball Players
最適な睡眠はアスリートが最高の運動能力を発揮することを可能にするのに有益であることを示しています。
2012年に中国のエリート女子バスケットボール選手20名を対象とした研究では、睡眠の質を改善するための赤色光線療法(Red-light illumination treatment)による身体照射の効果を示しました。
赤色光線療法は、トレーニング後の睡眠障害を改善する非薬物的/非侵襲的な治療法の一つです。
この研究では、14日間にわたり毎晩、赤色光線治療器具を使用して全身を 30分間照射しています。
Red Light and the Sleep Quality and Endurance Performance of Chinese Female Basketball Players
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フォトバイオモジュレーション治療(PBMT)
フォトバイオモジュレーション治療(photobiomodulation therapy:PBMT)とは、フォトバイオモジュレーション(PBM)という光工学プロセスに基づいた光線療法の一種です。
フォトバイオモジュレーション治療では、光源を皮膚の近く、または皮膚に接触させることで光エネルギーを皮膚に浸透させ、損傷組織または患部組織のミトコンドリアに作用させてフォトバイオモジュレーションを生じさせます。
これにより、疼痛の緩和、炎症の制御、免疫調節、組織再生の促進といった効果をもたらします。
フォトバイオモジュレーション治療は、低出力のレーザー光または発光ダイオードへの曝露が細胞(ミトコンドリア)機能を刺激し、有益な臨床効果につながる新たな医療技術で、パフォーマンスや回復力の向上に用いることを支持する証拠が増えつつあります。
ある研究では、高レベルのラグビー選手の無酸素性フィールドテストにおけるパフォーマンスと回復に対するフォトバイオモジュレーション治療の効果を分析し、スプリント時間、疲労指数を有意に改善し、血中乳酸値の変化率及び主観的疲労度を減少させました。
スーパーパルスレーザー(低出力レーザー)、赤色LED、赤外線LEDを組み合わせた運動前のフォトバイオモジュレーション治療は、ハイレベルなラグビー選手のパフォーマンスを向上させ、回復を早めることができます。
LED治療
LED治療(LEDT:Light-emitting diode therapy:発光ダイオード治療)は、LED(発光ダイオード)の光を浸透させる事により、非侵襲的に組織の回復が期待できる治療法です。
2015年にブラジルのプロバレーボール選手12名を対象にした研究では、試合前の下肢の発光ダイオード治療が、試合後の血中クレアチンキナーゼ(CK:筋損傷の指標とされる物質)の有意な増加を防ぎました。
激しい運動後の血中乳酸濃度クリアランス、ピークパワー出力および疲労指数に対する発光ダイオード治療の効果を明らかにするための研究では、それぞれ有意な効果が見られなかったと結論付けています。
The effects of light emitting diode therapy following high intensity exercise
LED治療が運動後の回復にどのように寄与するかを明らかにするためには、異なるパラメータを用いたさらなる研究が必要です。
有望ではあるが、既存のデータは限られているため、アスリートの回復のためのLED治療の使用を支持する根拠は低いといえます。
鍼治療
30人の大学バスケットボール選手を対象に、鍼刺激がアスリートの回復能力に及ぼす影響を分析しました。
その結果、鍼治療グループは、最大心拍数(HRmax)、最大酸素摂取量(VO2max)、血中乳酸濃度が有意に低いことが示されました。
この研究では、鍼治療がエリートバスケットボールアスリートのリカバリー能力を高めるために有効であると結論づけました。
この研究で用いた経穴(ツボ)は、内関(PC6)と足三里(ST36)でした。
Effects of Acupuncture Stimulation on Recovery Ability of Male Elite Basketball Athletes
その他のリカバリー
栄養編、身体的アプローチ編は下記の記事よりご覧ください。
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