PEACE & LOVE
スポーツをしていると、捻挫や打撲などのケガは避けられません。
従来、軟部組織損傷の治療には「RICE」や「PRICE」が用いられてきましたが、最近は「PEACE & LOVE」という新しい考え方が注目されています。
本記事では、これらの違いと、最新の回復方法について解説します。
軟部組織損傷とは?
まず、軟部組織について理解しましょう。
軟部組織とは、骨以外の結合組織を指し、具体的には腱、靭帯、筋膜、皮膚、脂肪組織、血管、筋肉、神経などを含みます。
スポーツによるケガとしては、捻挫、靱帯損傷、打撲、肉離れ、腱断裂などが該当します。
RICEからPRICE、そしてPEACE & LOVEへ
従来、急性期に強い痛みや炎症を抑えることを目的としてRICE処置が行われてきました。
英語表記 | 日本語表記 |
---|---|
Rest | 安静 |
Ice | 冷却 |
Compression | 圧迫 |
Elevation | 挙上 |
最新の研究では、「安静(Rest)」に重点を置くことが、長期的には組織の回復を遅らせることが示唆されています。
そのため、保護(Protection)を追加した「PRICE」が推奨されるようになりました。
英語表記 | 日本語表記 |
---|---|
Protection | 保護 |
Rest | 安静 |
Ice | 冷却 |
Compression | 圧迫 |
Elevation | 挙上 |
PRICE → POLICE 2012年
さらに、2012年には「POLICE」が登場し、適切な負荷をかけることが重要視されています。
英語表記 | 日本語表記 |
---|---|
Protection | 保護 |
Optimal Loading | 最適な負荷 |
Ice | 冷却 |
Compression | 圧迫 |
Elevation | 挙上 |
保護は、負荷を軽減/免除したり関節の動きを妨げること。
安静は、積極的な歩行や運動を避けることとしています。
しかし、安静は受傷直後のみに適用されるべきであり、長時間の患部に負荷を掛けないことにより、組織に悪影響をもたらすことがわかっています。
実際、足関節捻挫の急性期後の早期の機能的リハビリテーションは、ギプスによる固定よりも、外からの支持を受けながら早期に体重を支える方法(部分荷重)が優れています。
従来、松葉杖、装具、サポーターは、安静(Rest)と関連付けられていましたが、リハビリの初期段階において最適な負荷を調整・調節する上で、より大きな役割を果たす可能性があります。
最適な負荷(Optimal Loading)とは、これまでの安静(Rest)を、バランスのとれた段階的なリハビリテーションプログラムに置き換えることであり、早期の活動によって早期の回復を促すものです。
負荷戦略は、損傷した組織にかかる独特の機械的ストレスを反映する必要があり、組織の種類や解剖学的部位によって異なります。
詳細は下記の論文をご覧ください。
PRICE needs updating, should we call the POLICE?
直訳:PRICEはアップデートが必要です、警察を呼びましょうか?
PEACE & LOVEとは?
「PEACE」は急性期の対応、「LOVE」はその後の回復期におけるケアを指します。これにより、組織の回復を促進し、再発を防ぐことができます。
PEACE & LOVE は即時ケア(PEACE)からその後の管理(LOVE)までの連続したリハビリテーションを網羅しています。
回復を促進するために患者を教育し、心理社会的な要因に対処することの重要性を示しています。
Soft-tissue injuries simply need PEACE and LOVE
直訳:軟部組織損傷に必要なのは「平和と愛」
英語表記 | 日本語表記 | 詳細 |
---|---|---|
Protection | 保護 | 受傷後数日間は、痛みが増すような活動や動作を避ける。 |
Elevation | 挙上 | できるだけ頻繁に受傷した四肢を心臓より高い位置に上げる。 |
Avoid anti-inflammatories | 抗炎症剤回避 | 抗炎症剤の服用は組織の治癒を妨げるので避ける。 アイシングは避ける。 |
Compression | 圧迫 | 腫れを抑えるために弾性包帯やテーピングを使用する。 |
Education | 教育 | 自分の体が一番よくわかっている。 必要以上の医学的検査や治療は避け、自然の力に任せる。 |
以上がPEACEの内容です。続いてLOVEの内容です。
英語表記 | 日本語表記 | 詳細 |
---|---|---|
Load | 負荷 | 痛みを我慢して、徐々に通常の活動に戻していく。 負荷を増やしても大丈夫なタイミングは、体が教えてくれる。 |
Optimism | 楽観主義 | 自信を持ち、ポジティブになることで、最適な回復のための脳のコンディションを整える。 |
Vascularisation | 血管新生 | 痛みのない有酸素運動を選んで、修復中の組織への血流を増加さる。 |
Exercise | 運動 | 回復のための積極的なアプローチを採用することで、運動能力、筋力、固有感覚を回復させる。 |
PEACEは受傷直後の急性期の救急対応の考え方、LOVEは急性期後の早期リコンディショニングの考え方になっていますね。
以下の解説は、アスレティックトレーナーや医療従事者向けの内容になります。
PEACE について解説
軟部組織損傷直後は、PEACEに身を任せます。
P:保護
出血を最小限に抑え、損傷した線維の膨張を防ぎ、損傷を悪化させるリスクを減らすために、1~3日間は負荷をかけないか、動きを制限します。
長時間の安静は組織の強度と質を低下させるので、安静は最小限にします。
痛みのシグナルがあれば、保護を中止します。
E:挙上
組織からのリンパ液の流出を促進するために、四肢を心臓より高い位置に挙上します。
挙上に対するエビデンスは現時点では弱いですが、低いリスクと利益の比率を示しています。
A:抗炎症薬を避ける
炎症の様々な段階は、損傷した軟部組織の修復を助けます。
したがって、薬物を用いて炎症を抑制すること、特に高用量を使用すると、長期的な組織治癒に悪影響を及ぼす可能性があります。
軟部組織損傷に対する標準的治療には、抗炎症剤を含めるべきではありません。
C:圧迫
テーピングや包帯による機械的圧迫は、関節内水腫や組織出血を抑えるのに役立ちます。
相反する研究でも、足首捻挫後の圧迫は腫れを抑え、QOLを改善するようです。
E:教育
回復のための積極的なアプローチの利点について患者を教育する必要があります。
受傷後早期に電気療法や手技療法、鍼治療などの受動的な治療を行っても、能動的なアプローチと比較して痛みや機能に対する効果はわずかであり、長期的には逆効果となる可能性さえあります。さらには治療依存的行動につながる可能性もあります。
病態説明と負荷管理に関する教育を充実させることは、過剰な治療を避けることにつながります。
「魔法の治療法」を追い求めるのではなく、回復までの期間について現実的な期待を持つことを強くお勧めします。
LOVE の解説
最初の数日間が過ぎると、軟組織はLOVEを必要とします。
L:負荷
運動とエクササイズによる積極的なアプローチは、運動器疾患の患者にメリットをもたらします。
痛みを悪化させることなく最適な負荷をかけることは、修復、再生を促進し、組織の耐性を高め、メカノトランスダクション(細胞が機械的刺激を電気化学的活性に変換するさまざまなメカニズム)を通じて腱、筋肉、靭帯の能力を向上させます。
O:楽観主義
楽観的な患者の期待は、より良い転帰と予後と関連します。
壊滅感、抑うつ、恐怖などの心理的要因は、回復の妨げとなることがあります。
足関節捻挫後の症状のばらつきは、信念や感情で説明できると考えられています。
V:血管新生
心血管系活動は、筋骨格系損傷の管理における基礎となるものです。
運動量については研究が必要であるが、受傷後数日以内に痛みのない範囲での有酸素運動を開始し、モチベーションを高め、受傷部位への血流を増加させることが必要です。
早期の運動療法と有酸素運動は身体機能を改善し、職場復帰を支援し、筋骨格系疾患の患者における鎮痛剤の必要性を減少させます。
E:運動
運動は、受傷後早期に可動性、筋力、固有感覚を回復させるのに役立ちます。
冷却(Ice)はもう古い?
従来のRICEやPRICEに含まれていた「Ice(冷却)」は、現在では推奨されない場合もあります。
鎮痛効果が主な狙いだとしても、アイシングは炎症、血管新生、再還流を妨げ、好中球やマクロファージの浸潤を遅らせ、未熟な筋線維を増やす可能性があり、組織修復の障害やコラーゲン合成の重複につながる可能性があるためです。
つまり、冷却が炎症反応や組織の修復を妨げる可能性があるということです。
むしろ、アイシングは一時的な鎮痛効果を提供するに過ぎないとの指摘もあります。
まとめ
スポーツによるケガの対応は、時代とともに進化しています。
RICEやPRICEに代わり、PEACE & LOVEが現代の標準的な救急対応、早期李コンディショニング方法として注目されています。
適切なケアを行うことで、早期回復を促進し、長期的な健康を守りましょう。
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