米国高校野球選手49名の介入研究
アメリカの高校野球の12週間のトレーニング介入とバットスイング速度の関係についての研究論文を解説します。
高校野球選手の12週間のトレーニング前後における身体測定および生理学的変数とバット速度の関係
筋力トレのみ vs 筋トレ&MBエクササイズ
この論文は、高校野球選手を下記2群に分け、12週間介入し、それぞれのトレーニングが身体組成や筋力、バットスイング速度などにどのような影響を及ぼすかを研究しています。
- 筋力トレーニングのみ(ST群) n = 24
- 筋力トレーニング+メディシンボールエクササイズ(STMB群) n = 25
両群ともに上記の介入に加え、12週間、1日100回の素振りを週3日行っています。
メディシンボールはノーバウンドでキャッチすることは危険です。
バウンドに耐性のあるネモ・メディシンボールを推奨しています。
ST群よりもSTMB群が有意に向上した項目
下記測定項目に関して、ST群よりもSTMB群が有意に改善していました。
以下に、1項目ずつ解説しています。
バットスイング速度
![](https://eureka-sports.com/wp-content/uploads/2024/02/swing-velocity-1024x671.png)
バットスイング速度については、ST群の変化率が3.6%に対し、STMB群は6.0%でした。
バットスイング速度 | トレーニング前 | トレーニング後 | 変化率 |
---|---|---|---|
ST群 | 105.5km/h | 109.4km/h | 3.6% |
STMB群 | 106.6km/h | 113.4km/h | 6.0% |
実測値は上記の通りです。
これにより、筋力トレーニングと並行してメディシンボールエクササイズを実施した方が、バットスイング速度は向上することが証明されました。
スイング時の股関節角速度
![](https://eureka-sports.com/wp-content/uploads/2024/02/hip-1024x665.png)
股関節回転速度については、ST群の変化率が3.2%に対し、STMB群は6.8%でした。
股関節角速度 | トレーニング前 | トレーニング後 | 変化率 |
---|---|---|---|
ST群 | 586.4°/秒 | 605.5°/秒 | 3.2% |
STMB群 | 611.9°/秒 | 656.4°/秒 | 6.8% |
股関節回旋速度はモーションキャプチャーシステムを用いてバットスイング時の股関節角速度を計測し、6スイングを平均したものです。
骨盤の回旋、即ち股関節による回旋の速さの指標となります。
メディシンボールエクササイズを導入した選手は大きく向上しました。
スイング時の肩角速度
![](https://eureka-sports.com/wp-content/uploads/2024/02/shoulder-1024x671.png)
肩関節回転速度については、ST群の変化率が2.4%に対し、STMB群は8.8%でした。
肩関節角速度 | トレーニング前 | トレーニング後 | 変化率 |
---|---|---|---|
ST群 | 773.1°/秒 | 791.8°/秒 | 2.4% |
STMB群 | 789.8°/秒 | 865.8°/秒 | 8.8% |
肩角速度はモーションキャプチャーシステムを用いてバットスイング時の肩の角速度を計測し、6スイングを平均したものです。
骨盤から上の体幹部の回旋の速さの指標となります。
メディシンボールエクササイズを導入した選手は大きく向上しました。
MBヒッターズ・スロー
![](https://eureka-sports.com/wp-content/uploads/2024/02/ndtrs-1024x664.png)
この研究ではバットスイング速度とともに様々な測定項目の変化もみています。
MBヒッターズ・スローは、1kgのMBを両手に持ち、野球のバッティング動作のように横に投げた際の飛距離を計測した結果です。
この測定方法は、飛距離を伸ばすためにむやみに放物線を描かないように工夫がなされています。
詳細は研究論文に記載がありますのでご覧ください。
利き側体幹回旋筋力
利き側回旋筋力については、ST群の変化率が10.5%に対し、STMB群は17.1%でした。
利き側体幹回旋筋力 | トレーニング前 | トレーニング後 | 変化率 |
---|---|---|---|
ST群 | 81.1kg | 90.6kg | 10.5% |
STMB群 | 78.1kg | 94.2kg | 17.1% |
体幹回旋筋力は、Cybex Torso Rotation Machine (体幹回旋用のトレーニングマシン)を用いた3RM筋力測定の結果です。
利き側とは、バットスイング方向への体幹回旋のことです。
筋力トレーニングと並行してメディシンボールエクササイズをすることで体幹回旋筋力が向上しています。
非利き側体幹回旋筋力
![](https://eureka-sports.com/wp-content/uploads/2024/02/ndtrs-2-1024x664.png)
非利き側とは、バットスイング方向とは反対方向への体幹回旋のことです。
筋力トレーニングと並行してメディシンボールエクササイズをすることで体幹回旋筋力が向上しています。
ST群、STMB群ともに向上した項目
項目 | ST群 | STMB群 |
---|---|---|
身長(cm) | 0.4%↑ | 0.3%↑ |
体重(kg) | 1.7%↑ | 1.7%↑ |
体脂肪率(%) | 2.3%↓ | 2.3%↓ |
除脂肪体重(kg) | 5.8%↑ | 5.9%↑ |
項目 | ST群 | STMB群 |
---|---|---|
バーティカルジャンプ | 6.0%↑ | 5.7%↑ |
垂直跳び(cm) | 1.7%↑ | 1.7%↑ |
垂直跳びピークパワー(W) | 5.1%↑ | 6.2%↑ |
ベンチプレス(kg) | 17.2%↑ | 16.7%↑ |
パラレルスクワット(kg) | 29.7%↑ | 26.7%↑ |
今回の研究ではすべての数値が向上していることがわかりました。
研究論文では実測値も書かれていますので、参考にしてください。
実際のトレーニングプログラム
ST群およびSTMB群の筋力トレーニング種目は下記の通りです。
偏りがなく、漸進的であり、高校生向けでもあります。
バットスイング速度向上のためのプログラムがしっかりと考えて作られている印象です。
筋力トレーニング種目
この研究では月曜日・水曜日・金曜日の週3回で設定され、水曜日はスクワットとデッドリフトを行っていません。
筋力トレーニング種目 | 月 | 水 | 金 |
---|---|---|---|
パラレルスクワット※ | 〇 | 〇 | |
スティフレッグデッドリフト | 〇 | 〇 | |
ベンチプレス※ | 〇 | 〇 | 〇 |
ダンベルロウ | 〇 | 〇 | 〇 |
ショルダープレス | 〇 | 〇 | 〇 |
ライイングトライセプスエクステンション | 〇 | 〇 | 〇 |
バイセプスカール | 〇 | 〇 | 〇 |
素振り | 〇 | 〇 | 〇 |
スティフレッグデッドリフトはRDL(ルーマニアンデッドリフト)と同じ要領です。
負荷設定
1~4週、5~8週、9~12週のフェーズに分けて介入されています。
1~4週目の設定
1~4週目 | 負荷設定 | 回数 | セット数 |
---|---|---|---|
主要種目(w-up) | 45%1RM 50%1RM | 10回 10回 | 各1セット |
主要種目(Main) | 65%1RM 70%1RM 75%1RM | 10回 10回 10回 | 各1セット |
補助種目 | (75%1RM) | 10回 | 3セット |
負荷設定としてはピリオダイゼーションでいう筋肥大期に近い形です。
5~8週目の設定
5~8週目 | 負荷設定 | 回数 | セット数 |
---|---|---|---|
主要種目(w-up) | 45%1RM 50%1RM | 10回 10回 | 各1セット |
主要種目(Main) | 70%1RM 75%1RM 80%1RM | 8回 8回 8回 | 各1セット |
補助種目 | (80%1RM) | 8回 | 3セット |
負荷設定としてはピリオダイゼーションでいう筋肥大期と筋力期の中間のようなイメージです。
9~12週目の設定
9~12週目 | 負荷設定 | 回数 | セット数 |
---|---|---|---|
主要種目(w-up) | 45%1RM 50%1RM | 10回 10回 | 各1セット |
主要種目(Main) | 75%1RM 80%1RM 85%1RM | 6回 6回 6回 | 各1セット |
補助種目 | (85%1RM) | 6回 | 3セット |
負荷設定としてはピリオダイゼーションでいう筋力期に近いイメージです。
STMB群のMBスロープログラム
STMB群はこれに加えて下記のメディシンボールエクササイズ種目が追加されています。
メディシンボール種目 | 月 | 水 | 金 |
---|---|---|---|
ヒッターズスロー | 〇 | 〇 | |
スタンディングフィギュア | 〇 | 〇 | |
スピードローテーション | 〇 | 〇 | |
スタンディングサイドスロー | 〇 | 〇 | |
グラニースロー | 〇 | ||
立位バックワードスロー | 〇 | ||
スクワット&スロー | 〇 |
グラニースローは、あまり聞きなじみがありませんが、MBを両手に持ち、両下肢の間からすくい上げるように投げる方法です。
スクープスローとも言われます。
MBエクササイズの負荷設定
負荷設定は下記の通りです。
フェーズ | 負荷 | 回数 | セット数 |
---|---|---|---|
1~4週 | 5kg | 6回 | 2セット |
5~8週 | 4kg | 8回 | 2セット |
9~12週 | 3kg | 10回 | 2セット |
重いMBで少ない回数からはじめ、徐々に軽いMBで回数を増やしていることがわかります。
メディシンボールはノーバウンドでキャッチすることは危険です。
バウンドに耐性のあるネモ・メディシンボールを推奨しています。
小中学生には不向き
高負荷な筋力トレーニングやMBエクササイズは、骨端軟骨が未成熟な小・中学生には不向きです。
パフォーマンス向上どころか、スポーツ外傷・障害を招きますのでご注意ください。
高校生以上の野球選手は筋トレ&MBエクササイズを
今回は高校野球選手のバットスイング速度向上に影響をもたらすMBエクササイズの研究論文を紹介しました。
MBのみ介入した場合の、バットスイング速度向上が見込まれるかは今回の研究では明らかにされていません。
しかし、複数の研究の中で除脂肪体重(LBM)を増やすことがバットスイング速度を向上させることが明らかにされています。
高校生以上では、積極的に筋力トレーニングやMBエクササイズを入れましょう。
今回のトレーニングプログラムは非常に参考になると思います。
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