指導者やトレーナーが、選手のケガの状況をどのように把握するかは重要です。
正確に把握するためには何が必要であるか、今回は研究論文を一つピックアップして紹介します。
ケガに対する意識
今回紹介するのはニュージーランドで行われた研究論文です。
Coach and player attitudes to injury in youth sport
直訳すると、「青少年スポーツにおける傷害に対する指導者と選手の態度」。
中等教育学校のネットボール、サッカー、バスケットボールの選手226名と指導者117名への調査です。
ニュージーランドの中等教育学校は13歳から18歳が通う5年制の学校です。日本の中高一貫教育がスタンダードとなっています。
ネットボールは、女子のスポーツでドリブルのないバスケットボールのような競技です。
また、アンケート調査の中での「頻度を表す語句」は、下記の通り統一しました。
原文 | 日本語 | 頻度 |
---|---|---|
very often | とてもよくある | 80% |
often | よくある | 60-70% |
sometimes | ときどきある | 40-60% |
rarely | あまりない | 15-20% |
never | 一度もない | 0% |
87%の選手がケガを隠してプレーを続けた
選手226名のうち196名、実に87%の選手が「ケガを隠してプレーを続けた」と回答しました。
選手の4人に1人は、ケガを隠してプレーを続けることが「とてもよくある/よくある」と回答しています。
また、「ときどきある」と回答した選手と合わせると、3人に2人の選手がケガを隠してプレーを続けることが常態化していることになります。
この研究の問題点の一つは、「ケガをしていない選手」を把握していないことになります。
つまり、ケガを隠してプレー続けたことが一度もない選手(13%)はケガをしていない可能性があるということです。
9割の選手と指導者が「ケガをしてもプレーを続ける選手」を見ている
117名のうち102名の指導者(87%)と、226名のうち205 名の選手(91%)が「ケガをした選手がプレーを続けるのを目撃したことがある」と回答しています。
ケガをしてもプレーを続ける理由は「耐えられるから」
選手がケガをしてもプレーを続ける理由は下記の通りでした。
指導者は「チームを失望させたくないから」だろうと考えている
なお、指導者が考える「選手がケガをしてもプレーを続ける理由」は下記の通りでした。
ケガをした選手へのプレッシャー
50%以上の選手と指導者が、保護者や指導者、チームメイトが、ケガをした選手にプレーを続けるようプレッシャーをかけているのを見たことがあると回答しています。
プレッシャーの目撃が多い傾向
プレッシャーを見た経験は、15歳以上の選手から多く報告されています。
年齢が上がるにつれて競技性が高まり、勝利を意識するようになることが示唆されています。
「チームメイトからのプレッシャー」は、傷害予防コースを修了した指導者ほど多く報告されています。
傷害予防コースを修了した指導者は、行動の可能性をより認識していることを示唆していると思われる。
勝利至上主義と知識不足がプレッシャーに
プレッシャー行動の主な理由は下記の通りでした。
、知識不足、勝利への欲求、チームを失望させないことであった。
勝利と競争は、チームの勝利へと導くことと、チーム内でのレギュラー争いが主な要因だと考えられます。
また、選手や指導者が考える「保護者がプレッシャーをかける理由」は下記の通りです。
知識と行動は必ずしも結びつかない
117名の指導者うち、82名(70%)がコーチング資格を持っており、72名(62%)がスポーツ関連の応急処置・傷害予防プログラムを修了していました。
今回の研究の結果、ケガに対する知識を得ることは最も重要であることがわかります。
しかし、知識を得ているにもかかわらず、知識が行動に結びつくとは限りません。
本サイトでは、知識が行動に結びつくためには「行動の壁」を乗り越える必要があると考えています。
上記のロードマップを認識しておけば、自分が今どこにいるのか、次に何をすればよいのかを把握することができます。
交代要員不足の解決策
交代要員の不足の問題は、スポーツを行う子どもたちが減っている日本においては大きな問題です。
本サイトでは、この問題を解決する方法は下記の2つが考えられます。
ユーティリティープレーヤーはチームスポーツにおいて複数のポジションをこなす選手を指します。
このような選手を増やすことで、練習や試合において欠員やリスクが生じた際に、臨機応変にポジションを変更することも可能です。
また、競技によっては途中交代により試合から退いた選手は再出場できないことがあります。
豊富な選手数で戦力があるチームは問題ありませんが、選手数が少ないチームは圧倒的不利になります。
このようなケースでは、試合から一旦退いた選手も再出場できるルールにすると良いでしょう。
公式戦では認められなくても、練習試合では両チーム合意の上で可能となります。
もちろん、選手にも途中交代後に再出場できる心づもりをさせておくことが重要です。
選手と指導者の良好な関係
ケガの報告を自主性に任せていることも問題です。
現在は、痛みやケガ、コンディション不良をウェブやアプリなどで回答し、指導者が把握する、いわゆる「傷害サーベイランスシステム」もあります。
しかし、選手が正直に回答しているかは不明です。
選手と指導者の立場が上下の関係にあるのではなく、対等な立場であるかどうかもスポーツ現場には重要であると考えます。
日本のスポーツ現場での問題は山積していますが、これは日本に限らず、海外においても重要な問題であるようです。
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