この記事の要約
ナラティブ・レビューによる論文
ナラティブレビューとは、バイアスを最小限にするための手法(メタアナリシスやシステマティックレビューで用いる手法)を用いずに書かれた総説のことです。
エビデンスレベルでは、メタアナリシスやシステマティックレビューに劣ります。
今回は下記の論文を元にしています。
Where are We Headed? Evidence to Inform Future Football Heading Guidelines
ヘディングは脳の健康に影響する?
これまでに発表された総説では、ヘディングを繰り返し行うことにより、短・中期的な認知機能の変化との間に因果関係を示す根拠は曖昧であると報告されています。
ヘディングの急性発作後、眼球運動機能と神経フィラメントタンパク質に関連するバイオマーカーに短期間(<24時間)の変化があることを示す証拠は存在していますが、これらの変化は一過性のものであり、ヘディング後24時間で消失することが報告されています。
短時間のヘディングの繰り返しはNG
これらの研究で用いられたヘディングは、非現実的な頻度(例えば、10分間で10~20回のヘディング)で、試合の状況を代表するものではありません。
これらの論文の一般的なコンセンサスは、短期間(72時間未満)では、低頻度のヘディングは青少年と成人の認知能力に影響を与えないようである、というものです。
Memo:ヘディング練習という名目で、短時間に集中して頭部へ衝撃を与えることは避けるべきです
長期的には認知機能テストのスコアが低下する?
ヘディングの長期的な結果に関するエビデンスは多くありません。
スコティッシュリーグ元プロサッカー選手(平均年齢67.5歳)を対象とした論文では、対照集団と比較して、神経変性疾患による死亡や認知症の治療薬を処方される可能性が高いことが報告されており、この影響は70歳以上でのみ明らかでした。
引退したプロ選手60名(平均年齢67.5歳、プロ15.7年)を対象としたある研究では、認知機能テストのスコアが低いほど、キャリアを通じて自己申告したヘディングの回数が多いことと関連があると報告されています。
58論文の概説
全部で58の論文が採用され、これらの論文には以下の3つの内容が概説されていました。
- ゲーム戦略・チームの育成戦略
- 選手のスキルアップ
- 用具に基づいた戦略
今回の記事では、1.ゲーム戦略・チームの育成戦略について述べていきます。
女性やジュニア・ジュニアユース世代の選手は注意
成人および青少年プレーヤーの研究から集められた、ヘディング中の頭部衝撃の大きさのデータを下記に示します。
対象 | ピーク直線加速度 | ピーク回転加速度 |
---|---|---|
ジュニア男子 | 9 – 45g | 501 – 10,372rad/s² |
ジュニア女子 | 5 – 47g | 445 – 8869 rad/s² |
成人男性 | 14 – 19g | 656 – 774 rad/s² |
成人女性 | 17 – 24g | 1,038 – 1,416 rad/s² |
頭部衝撃の大きさをジュニア男子とジュニア女子の間で直接比較した研究では、ジュニア女子の方がピーク直線加速度とピーク回転加速度が高いことがよく観察されます。
しかし、これはすべての研究で一貫して示されたわけではありません。
ヘディング中の直線加速度と回転加速度のピークは思春期には年齢とともに減少するようです。
成人選手のヘディング中の頭部加速度の最大値は一貫してジュニア選手よりも低く、女性は男性よりも高い値を示すことが多くなります。
これらの観察結果の理由についてはさらなる解明が必要です。
女性、青少年、子どもの頸部の強さが低いこと、ヘディングの技術や経験の違いに関係しているという仮説が立てられており、この推論を支持する新たな証拠も出てきています。
ゴールキックをヘディングで受けるのは危険
全米大学体育協会ディビジョンIの女子選手25名(平均年齢19.6歳)を対象とした研究では、下記の場面が最も頭部への衝撃が高いものとなりました。
場面 | ピーク直線加速度 | ピーク回転加速度 |
---|---|---|
ゴールキック後のヘディング | 38.8±19.4g | 9,300±3,900rad/s² |
パント後のヘディング | 36.0±15.1g | 10,100±4,800rad/s² |
36名のエリート女子ユースプレーヤーを対象とした研究によると、平均して、ゴール上のシュートから発生する意図的なヘディングが頭部直線加速度のピークが最も大きく、コーナーキックが最も回転速度が大きいことが示されました。
頭部への衝撃の位置に関しては、頭頂部でのヘディングが最大の直線加速度と回転速度をもたらしましたが、ほとんどのヘディングは額を使って行われていました。
シュート、クリア、パスで衝撃は同じ
サッカーの3つのヘディングのタイプ(シュート、クリア、パス) と2つのヘディングのアプローチ(スタンディングとジャンプ)が衝撃力と頚部の筋活動に及ぼす影響を調査した研究では、ヘディングのタイプとアプローチ間で頭部加速度に差はないと報告していました。
この研究ではすべてのボールが6.8m/s(24.5km/h)でスローインから送球されており、このことがこれらの結果に影響を与えている可能があります。
右の胸鎖乳突筋の筋活動は、スタンディングヘディングとジャンピングヘディングでより高い値が認められ、ジャンピングアプローチで観察された筋活動の増加は、インパクト時の頭頸部複合体を安定させるようでした。
Memo:頭部への衝撃の強さは「ヘディングで受ける際のボールの速度」に依存する可能性がある
ショートコーナーの推奨
従来の11対11のゲームと比較して、ヘディングが少ないスモールサイドのゲーム(SSG)のような制約に基づくプレーが推奨されます。
また、ロングボール(ゴールキックやコーナーキック)の後に胸や足でトラップするなど、体の前でコントロールする能力を発達させ、ショートコーナーを奨励することで、このようなヘディングの回数を減らすことができます。
ゲーム戦略・チーム育成戦略まとめ
下記は今後のヘディングのガイドラインに関する試合またはチームの推奨事項です。
- 試合と練習の両方において、ヘディングにさらされる機会を全選手に対してモニタリングすることが推奨される。試合中にヘディングを常習的に行っている選手は、翌週の練習ではヘディングを行わないようにする。このことは、若い選手や、女性選手に対しても強調されるべきである。
- コーチングの枠組みは、試合でヘディングをする前に、管理された環境でボールを額で受けることを教えるなど、ヘディングの熟練度を高めることに重点を置くべきである(ヘディングの練習の多くの要素は、ボールと頭部が接触しなくてもできる)。
- スモールサイドゲーム、後方からのプレー、ショートコーナーを推奨し、ゴールキックからのヘディングを回避することは、ヘディングの負担を減らすための戦略として、特に成長途上の若い選手に考慮されるべきである。
- 試合中の意図的な頭部接触に関するルールは実施されなければならない。
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