2024年4月に公表
日本スポーツ協会のWebサイト内にあるATインフォメーションでは、新カリキュラムに関する様々な情報が更新されています。
2024年4月1日付で下記の通知文がアップされていましたので紹介します。
思い返せば、日本スポーツ協会は2023年2月に新カリキュラムの3科目の参考書籍として13冊を明示していました。
内訳は人体の解剖と機能が4冊、スポーツ医学概論が4冊、スポーツ科学概論が5冊でした。
この書籍の詳細は下記の記事の下部で紹介しています。
2024年3月に3冊出版
2024年3月下旬に文光堂より、上記3科目のアスレティックトレーナー専門基礎科目テキストとして3冊が出版されました。
こちらについては、下記の記事で紹介しています。
新しく示された参考書籍
今回、新しく参考書籍として示された書籍一覧は下記の通りです。
全8冊ですが、そのうち3冊は文光堂から出版されたばかりのものです。
残りの5冊は、今回初めて示された参考書籍です。
お気づきでしょうか。2023年2月に明示されていた13冊が1冊も残っていません。
しかも、2024年3月に出版されたばかりの3冊ではすべてを補えないことになっています。
一体、日本スポーツ協会さんは何をお考えなのでしょうか…。
ということで、今回新たに参考書籍として挙がった5冊を紹介します。
からだがみえる 人体の構造と機能
医療系学生向けの内容です。
鍼灸マッサージ師や理学療法士、柔道整復師を目指す方にはおすすめです。
医療国家資格養成校で使われるテキストよりもかなり踏み込んだ内容も記載されています。
しかし、アスレティックトレーナーがここまで知識を必要とすることは考えにくいです。
人体の基本 人体の構成と見方 |
運動器 運動器の概観 骨 関節 筋 上肢 下肢 体幹 徒手筋力テストと関節可動域 |
脳・神経 神経系の全体像と大脳の概観 神経系の細胞と機能 中枢神経系 脳血管と脳脊髄液 末梢神経系 神経系の機能と伝導路 自律神経系 脳神経 |
感覚器 視覚器(眼) 視覚と視覚器の機能 耳の構造と聴覚・平衡感覚 鼻の構造と嗅覚 舌の構造と味覚 皮膚の構造と機能 |
血液・免疫 血液の全体像 赤血球 白血球 免疫の全体像 自然免疫 獲得免疫 腫瘍免疫 止血機構 |
循環器 循環器の構造 心臓の活動 心電図 循環系の調節 |
呼吸器 呼吸器の構造 呼吸運動 呼吸機能検査 呼吸生理 呼吸の調節 発声 |
腎・泌尿器 腎・泌尿器の構造 腎臓の機能 体液と浸透圧 水・電解質 酸塩基平衡 下部尿路の機能 |
消化器 消化管の全体像 口腔・咽頭 食道 胃・十二指腸 小腸・大腸 肝臓 胆囊・膵臓 |
内分泌・代謝 内分泌の概念と作用機構 視床下部-下垂体の構造と機能 甲状腺の構造と機能 副甲状腺の構造と機能 副腎の構造と機能 膵臓の内分泌機能 脂肪細胞の内分泌機能 脂質代謝 尿酸代謝 |
生殖器 男性生殖器の構造と機能 女性生殖器の構造と機能 妊娠 胎児の発育 胎児-胎盤系 妊娠に伴う母体変化 母体の生理学的変化 分娩 乳腺 生殖器の発生と分化 |
エッセンシャル・キネシオロジー 機能的運動学の基礎と臨床
運動器のスペシャリスト向けの内容です。
以前紹介した書籍のカパンジー機能解剖学や筋骨格系のキネシオロジーのレベルです。
整形外科医や理学療法士、鍼灸マッサージ師、柔道整復師などは身につけておきたい知識レベルです。
しかし、アスレティックトレーナーがここまで知識を必要とすることは考えにくいです。
第1章 キネシオロジーの基本原理 運動学 運動力学 |
第2章 関節の構造と機能 軸性骨格と付属性骨格 関節の分類 結合組織 |
第3章 骨格筋の構造と機能 筋の基本的な性質 筋節:筋の基本的な収縮単位 筋の形態と機能 筋の長さ-張力関係 筋の力-速度関係:速さについて 患者に対し治療上の原則を守ることが重要 |
第4章 肩複合体の構造と機能 骨学 関節学 筋と関節の相互作用 |
第5章 肘・前腕複合体の構造と機能 骨学 肘の関節学 前腕の関節学 肘・前腕複合体の筋 |
第6章 手関節の構造と機能 骨学 関節学 筋と関節の相互作用 |
第7章 手の構造と機能 骨学 関節学 筋と関節の相互作用 手の関節変形 |
第8章 脊柱の構造と機能 正常な弯曲 重心線 骨学 運動学 筋と関節の相互作用 |
第9章 股関節の構造と機能 骨学 関節学 筋と関節の相互作用 |
第10章 膝関節の構造と機能 骨学 関節学 筋と関節の相互作用 |
第11章 足関節と足部の構造と機能 用語 歩行周期の概要 骨学 足関節と足部の関節学 筋と関節の相互作用 |
第12章 歩行の基礎知識 用語 歩行周期の詳細 異常歩行 |
第13章 咀嚼と換気のキネシオロジー 顎関節 筋と関節の相互作用 顎関節のまとめ 換気 換気のまとめ |
用語解説 確認問題の解答 和文索引 欧文索引 |
スポーツと運動のバイオメカニクス
スポーツバイオメカニクスの初学者からスポーツ科学者までを対象とした書籍のようです。
力学的な計算方法や計算過程に関する記述や解説も明記されています。
しかし、アスレティックトレーナーがここまで知識を必要とすることは考えにくいです。
序章 なぜバイオメカニクスを学ぶのか? バイオメカニクスとは何か? /スポーツとエクササイズのバイオメカニクスの目標は何か? /スポーツバイオメカニクスの歴史/力学の構成/力学で用いられる計測の基本的サイズと単位/まとめ |
PartⅠ 外的バイオメカニクス ―外力と,それらが身体とその動作に及ぼす影響 第1章 力 ―平衡の維持あるいは動きの変化 力とは何か?/力の分類/摩擦/力の追加:力の合成/力の分解/静的平衡/まとめ 第2章 並進運動学 ―並進運動する物体の記述 運動/並進運動学/一様加速度と投射運動/まとめ 第3章 並進運動力学 ―並進運動の原因を説明する ニュートンの運動の第1法則:慣性の法則/運動量保存の原理/ニュートンの運動の第2法則:加速度の法則/力積と運動量/ニュートンの運動の第3法則:作用- 反作用の法則 /ニュートンの万有引力の法則/まとめ 第4章 仕事, パワー, エネルギー ―ニュートンを用いずに運動の原因を説明する 仕事/エネルギー/仕事-エネルギー定理/パワー/まとめ 第5章 トルクと力のモーメント ―平衡の維持または回転運動の変化 トルクとは何か?/平衡状態における力とトルク/重心とは何か?/まとめ 第6章 回転運動学 ―物体の回転運動の記述 角度位置と角度変位/角度変位および並進変位/角速度/角速度および並進速度/角加速度/角加速度と並進加速度/四肢の運動を記述するための解剖学的システム/まとめ 第7章 回転運動力学 ―回転運動の原因を説明する 回転慣性(角慣性)/角運動量/ニュートンの運動の第1法則の回転運動学的解釈/ニュートンの運動の第2法則の回転運動学的解釈/角力積と角運動量/ニュートンの運動の第3法則の回転運動学的解釈/まとめ 第8章 流体力学 ―水と空気の影響 浮力:浸漬による力/動的な流体からの力:相対運動による力/まとめ |
PartⅡ 内的バイオメカニクス ―内力と,それらが身体とその動作に及ぼす影響 第9章 生体組織の力学 ―身体に作用する応力とひずみ 応力/ひずみ/材料の力学的特性:応力- ひずみ関係/筋骨格系の力学的特性/まとめ 第10章 骨格系 ー身体の剛体構造 骨/関節/まとめ 第11章 筋系 ―身体のモーター 骨格筋の構造/筋活動/筋の収縮力/まとめ 第12章 神経系 ―筋骨格系の制御 神経系とニューロン/運動単位/受容器と反射/まとめ |
PartⅢ バイオメカニクスの原理の応用 第13章 定性的バイオメカニクス分析による技術の向上 バイオメカニクス分析の種類/定性的バイオメカニクス分析の手順/サンプル分析/まとめ 第14章 定性的バイオメカニクス分析によるトレーニングの改善 バイオメカニクスとトレーニング/解剖学的定性的分析の方法/サンプル分析/まとめ 第15章 傷害発生を理解するための定性的バイオメカニクス分析 力学的な応力と傷害/応力に対する組織の反応/オーバーユース障害のメカニズム/組織の閾値の個人差/傷害発生に影響する内的および外的要因/分析例:ランニングによって発生するオーバーユース障害/まとめ 第16章 バイオメカニクスのテクノロジー定量的バイオメカニクス分析 測定上の問題点/バイオメカニクス変数を測定するためのツール/まとめ |
カラー運動生理学大事典 健康・スポーツ現場で役立つ理論と応用
体育・スポーツ関係者だけでなく、健康科学やリハビリテーション関係、医学系、栄養学系など、幅広い分野で活用できる書籍のようです。
この書籍の対象を「スポーツ・健康系の学部の学生、研究者、教員、スポーツトレーナー、コーチ、スポーツドクター、スポーツ選手、リハビリテーション関係者など」としています。
しかし、アスレティックトレーナーがここまで知識を必要とすることは考えにくいです。
第Ⅰ部 運動生理学序説 第1章 運動生理学の起源:研究分野の基礎 |
第Ⅱ部 栄養とエネルギー 第2章 三大栄養素と微量栄養素 第3章 食品がもつエネルギーと運動のための最適な栄養 第4章 パフォーマンスを向上させる栄養学的および薬理学的な補助 |
第Ⅲ部 エネルギー変換 第5章 エネルギー変換の基礎 第6章 運動時のエネルギー供給機構 第7章 運動中におけるエネルギー産生能の測定と評価 第8章 安静時および運動時のエネルギー消費量 |
第Ⅳ部 生理学的サポートシステム 第9章 呼吸器系と運動 第10章 循環器系と運動 第11章 神経筋系と運動 第12章 ホルモン、運動、トレーニング |
第Ⅴ部 運動トレーニングと適応 第13章 有酸素性・無酸素性エネルギー系のトレーニング 第14章 骨格筋を鍛えて強くする 第15章 生理機能に影響を与える要因:環境とパフォーマンスを向上させる特別な要因 |
第Ⅵ部 身体組成の最適化、サクセスフルエイジング、運動による恩恵 16章 身体組成、肥満、ウェイトコントロール 17章 身体活動、運動、サクセスフルエイジング、疾病予防 18章 運動生理学の臨床応用 |
パワーズ運動生理学 – 体力と競技力向上のための理論と応用 –
運動やスポーツに関わる指導者、教育者、研究者、健康運動指導士、理学療法士、スポーツドクター。
将来、運動やスポーツ、健康づくりに関わる事を志す学部学生や大学院生、さらに将来を担う若手研究者にぜひとも読んでいただきたい書籍のようです。
しかし、アスレティックトレーナーがここまで知識を必要とすることは考えにくいです。
Section1 運動生理学の基礎 第0章 運動生理学の世界へようこそ 第1章 運動生理学で行われる一般的な測定 第2章 内部環境の制御 第3章 生体エネルギー反応 第4章 運動時の代謝 第5章 細胞シグナル伝達と運動に対するホルモン応答 第6章 運動と免疫系 第7章 神経系の構造と運動の制御 第8章 骨格筋:構造と機能 第9章 運動時の循環応答 第10章 運動時の換気応答 第11章 運動時の酸塩基平衡 第12章 体温調節 第13章 トレーニングの生理学:最大酸素摂取量,パフォーマンス,筋力への効果 |
Section2フィットネス 健康・体力向上のための運動生理学 第14章 慢性疾患の予防:身体活動と健康的な食習慣 第15章 心肺機能評価のための運動負荷テスト 第16章 健康と体力改善のための運動処方 第17章 特別な配慮を要する集団に対する運動処方 第18章 健康のための栄養と身体組成 |
Section3パフォーマンス 競技力向上のための運動生理学 第19章 パフォーマンスに影響を及ぼす要因 第20章 パフォーマンスの実験室評価 第21章 パフォーマンス向上のためのトレーニング 第22章 女性アスリート,子ども,特定の疾患をもつアスリート,中高年アスリートのためのトレーニング 第23章 栄養および身体組成とパフォーマンス 第24章 運動と環境 第25章 エルゴジェニックエイド |
理論試験対策に必要か
今回増えた5冊はかなり専門的な書籍のようです。
新カリキュラムの授業を進める上で、講師が用いる教材としては適しているかもしれません。
しかし、学生や受験生がこの書籍レベルに到達するには、相当の時間を要するでしょう。
したがって、理論試験対策には買って読むほどのものではありません。
普遍的な知識が問われる
本当に理論試験に必要かどうか、もう一度通知文を確認してみましょう。
検定試験は特定の参考書籍からの出題ではなく、普遍的な知識について問う試験となります。
普遍的とは「あらゆる範囲に行き届いている」、「あらゆる物事に共通してあてはまる」という意味です。
今回の5冊のうち「からだがみえる」と「エッセンシャル・キネシオロジー」は、医療系資格者にとっての普遍的な知識です。
その他の3冊は、スポーツ科学者や研究者にとっては普遍的な知識です。
では、アスレティックトレーナーにとっての普遍的な知識とは一体何でしょうか。
日本スポーツ協会の対応が待たれます。
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