今回はスポーツにおけるリカバリー戦略について栄養学的視点からみていきます。
過密な試合スケジュールや、練習、合宿などにおいて、身体疲労や精神疲労、パフォーマンス低下から素早く回復することは重要です。
なお、私は栄養の専門家ではありませんので、詳細な情報はスポーツ栄養士さんや管理栄養士さんなどにご相談ください。
栄養摂取による疲労回復
競技スポーツ、特にサッカーや野球、バスケットボール、ラグビー、テニス等の球技においては、スプリント、ジャンプ、シャッフル、急速な方向転換などの爆発的な動作の繰り返しがあり、競技によっては投げる、打つ、衝突するなどの競技特有の動作も含まれています。
トップレベルのアスリートは、リカバリー(身体的/精神的疲労およびパフォーマンス低下からの回復)時間が限られている中で、連続した試合を行うことが頻繁に求められます。
練習や試合、トレーニングセッションの後に十分な回復を確保するためには、誘発される疲労の種類と、その根本的なメカニズムを知り、リカバリーを最適化することが特に重要です。
今回は栄養学的視点から、バスケットボールおよびラグビーに焦点を当てた研究論文を参考に実用化につながる情報を紹介します。
Evidence-based post-exercise recovery strategies in basketball
Evidence-based post-exercise recovery strategies in rugby: a narrative review
炭水化物/タンパク質
アスリートの食事では、エネルギーの大部分が炭水化物(糖質/食物繊維)から摂取されます。
スポーツドリンクなどの飲料に含まれる炭水化物は、飲みやすさを向上し、筋グリコーゲン貯蔵量の即時回復を助けます。
練習や試合の後、筋グリコーゲン貯蔵量は枯渇しているため、炭水化物とタンパク質を摂取することは、その後の運動パフォーマンスにプラスの影響を与えることが示されています。
また、同じ日または連続した日に複数の練習や試合に関わるアスリートにとって有益であることは言うまでもありません。
理想的な組み合わせは、急速に吸収される炭水化物と加水分解ホエイプロテインで、3~4:1の比率で、炭水化物は体重1kgあたり1gが推奨されます。
運動後30分以内に炭水化物、タンパク質、水分を補給することで、エネルギーレベルの回復と筋損傷の修復を早めることができます。
練習後の早期回復期に大栄養素、特に糖質と場合によっては少量のタンパク質とロイシン(用量:糖質0.3g/kg、タンパク質 0.2g/kg、ロイシン 0.01g/kg)を摂取すると、シーズン中の1日あたりの筋グリコーゲン再合成を促進できることが立証されています。
しかし、先行研究では、どの用量がバスケットボール選手で特に回復後を強化するかを決定するために、異なる用量でタンパク質と組み合わせて糖質の摂取を分析する必要があります。
最後に、Schröderら(2002)によると、普段の毎日の練習で、選手は1シーズン中、糖質(12.7%)と他の栄養素:アミノ酸(14.5%)およびタンパク質(12.7%)を摂取していました。
ビタミン
酸化ストレスは、体がフリーラジカル(遊離基:一部の活性酸素など)から身を守るのに十分な能力がないときに起こり、老化プロセス、細胞損傷、筋疲労、オーバートレーニングに関与しています。
活性酸素は酸化ストレスの主な原因であり、運動後の筋線維の損傷の開始と進行に大きな役割を果たします。
バスケットボールでの最大運動時には、VO2値が女子で33.4~4.0、男子で36.9~2.6mL/kg/分と、これまでの予想以上に有酸素代謝の利用が高いことが知られています。
抗酸化ビタミン(ビタミンCやビタミンE)、カロテノイド、フラボノイドなど、フリーラジカルから細胞を保護するためのいくつかの抗酸化物質が知られています。
ビタミンCやビタミンEの補給は、最大または高強度の運動を行うアスリートの活性酸素を減少させることにより、抗酸化防御システムを強化すると考えられます。
トップレベルのラグビー選手の栄養習慣に関する調査では、栄養知識のスコアが高い人は、果物、野菜、および炭水化物が豊富な食品をより多く消費する傾向がありました。
ラグビー選手では酸化ストレスの増加と筋肉組織の損傷が観察されていることを考えると、抗酸化酵素(Cu、Zn、Fe、Seなど)、抗酸化ビタミン(C、Eなど)、およびアミノ酸の栄養補給が推奨されます。
アスリートの栄養習慣として、最も頻繁に使用されるサプリメントはマルチビタミン(50.9%)であり、次にスポーツ飲料(21.8%)が続いています。
クレアチン(Cr)
1992年以降、サプリメントとしてのクレアチンへの関心が劇的に高まりました。
球技スポーツでは、炭水化物とクレアチンの補給が身体能力の回復を促進できると結論付けています。
特に、高強度の間欠的運動を特徴とするバスケットボールのようなスポーツで、その有効性が実証されています。
この意味で、トップレベルのスペイン選手のデータは、クレアチン一水和物を低量で補給しても3競技シーズンに健康パラメータの大部分で検査値の異常が発生しないことが示されました。
クレアチンは広く使用されているエルゴジェニックエイドですが、競技後の作用メカニズムは完全には理解されていないことに留意することをお勧めします。
β-アラニン
β-アラニンとは、アミノ酸の一種で、骨格筋のカルノシンと呼ばれる物質を作り出す材料として用いられています。
高強度運動中の筋疲労の要因の一つに筋内のpH低下があります。
カルノシンは、高強度の運動時に乳酸が生成される過程で発生する水素イオンによる酸化を中和する働きを持っています。
そのためカルノシンによる中和作用は筋疲労を抑制し、高強度での持久力を高めることができると言われています。
β-アラニン補給による効果(一般的な見解)を下記にまとめました。
β-アラニンの補給は、高強度運動のパフォーマンスおよび能力を向上させることが示されています。
回復に対する効果は明確ではありませんが、高度に訓練されたアスリートにおけるβ-アラニン補給が重要である可能性を示した著者もいます。
2022年のルーマニアの研究報告では、男子バスケットボール選手でのβ-アラニン摂取の有用性が報告され、8週間の介入でプラセボ群に比べて炎症マーカーの有意な低下と、最大無酸素パワーの有意な上昇が認められました。(下記のリンク参照)
重曹(炭酸水素ナトリウム:NaHCO3)
最近の研究の中で、高強度運動に対するβ-アラニン補給と重曹(炭酸水素ナトリウム:NaHCO3)の効果に焦点が当てられています。
現在の研究では、β-アラニンと重曹の組み合わせ補給またはβ-アラニン単独の補給よりも、重曹単独の補給が反復スプリントパフォーマンスを改善することが実証されています。
重曹については、2021年に国際スポーツ栄養学会がポジションスタンドを発表しています。(下記リンク)
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